近未来医学が目覚めさせる古代神話

遺伝子操作で生まれてきた者たちの物語

古代の女神「パールヴァティ」の遺伝子から誕生したデザイナーズ・ベイビー「スーリア」。
スーリアは現代でアイドルをしているが、女神としての特性か人を魅了しすぎる。
その魅力的でありながら危険な歌姫を、シン、ゼロ、ヤン、チャンドラ、彼らがアイドルとして、神話の遂行、恋愛感情、医療技術の獲得、それぞれ違う接点からアプローチを始めて行く。


ラブコメながら、スーリアは何者か、ゼロは何者か、定期的に「謎」が提示され、ミステリアスで飽きさせない構成。
魔法とか永遠の命とか、にわかには信じがたい古代神話の世界が、現代科学・医学によって明らかにされていくのはどきどきしました。
インド神話はもともとスケールが大きく常軌を逸しているので「ゼロが月を二つに増やした」とか「葉月の性別が存在しない」とかでも何か納得してしまうという

とても分かりやすい文体で、伏線を見落したり、場面の誤認が起こりにくく、振り落とされることなく物語を楽しめることが出来ました

やっぱり一番驚いたのは「パールヴァティの遺伝子から作られた子がアイドルをしている」という設定でした。
どういう気分なんだろう、古代の女神として生まれるって。でも世の中の期待を一身に集めて生まれながらも、24時間監視され本当の自分がない。結局、完全な特性を持って生まれても、人間って周囲によって「自分が何者か」決定されてしまうんだね。
完全なるデザイナーズ・ベイビーでさえ「生きづらい」という人間社会の本質的な孤独感、どうやったら幸せになれるのか考えさせられます
でも周囲といることで「自分が何者か」変われるなら、シン、ゼロ、ヤン、チャンドラはそれぞれ異なるパーソナルを持っているから、誰と一緒にいるかでスーリアもいろいろ変わっていけるのかも知れない

スーリアの壁を壊そうとするシンは、やや強引。けれどもシンは色覚異常がある(正体がイノシシだから?)と打ち明けたあたりから、少し見方が変わりました。アイドルとしての見た目的なスーリアではなく、もう少し違う角度から一緒にいようと思ってるのでは。

一方ゼロの物語は神話と絡んで奥行きが大きい
ゼロと一緒にいればスーリアは女神の道を歩んでしまうのだろうか
覚醒したスーリアの歌を聴いた者がばたばた倒れるけれど、女神の力は兵器になってしまいそうでもある。


創造、維持、破壊のインド神話、カクヨムではあまり見かけないのですごく新鮮でした
拝読させていただきありがとうございました