18話 藤城若菜③
「ねぇ、いったいどういうこと…?」
「あぁ、美佳、実はな________」
相羽さんのデスクに行くと、そこにはゆうくんが待っていた。
「_______藤城若菜さんに会いに行けることになった」
「・・・え?それってどういう・・・」
ゆうくんの話によると、私が言われもない誹謗中傷を受けるのはおかしいということで、ゆうくんと相羽さんが、大木声優プロダクションの社長さんとコンタクトを取り、藤城若菜さんと会えるように取り計らってくれたらしい。
「あんたの旦那さんは、すごいな」
「え?」
藤城さんとは、明日会うということで、ゆうくんが家事をのために家に帰った後、相羽さんにそんなことを言われた。
「あんたを守るために、必死にうちの社長や大木プロの社長と掛け合って、藤城さんとの約束を取り付けてた」
「そうなんですか……」
「あぁ。他の人間のために、あそこまで行動できる人間はそういないだろう。あんたは愛されてるな」
「でも、私はゆうくんに助けられてばっかりです…」
今まで、私が一方的にゆうくんに何かを貰って、私から恩返し出来たことがない。
「何も無い人間に、無償で手助けをするもんか。あんたの旦那にとって愛流美佳は特別な存在なんだよ。自分が気づいてないところで、あんたは旦那に何かを与えてるんだよ」
そっか、今まで夫婦だから無償の愛を与えるのは当たり前のことだと思っていた。だから、私に何かあればゆうくんは私のことを助けてくれるんだと。
そうじゃなくて、自分の気づかないところでゆうくんに何かを与えていたんだ。
「ただいまー」
家に帰り、玄関を開けるとエプロン姿のゆうくんが出迎えてくれた。
「おかえり」
そのまま、いつものように抱きしめてくれる。
温かいゆうくんの体温が伝わってくる。このぬくもりを感じると、いつも安心できる。今日は、特に安心する。
「ねえ、目つむって?」
抱擁が解かれると、そう頼んでみる。
「ん?こうか?」
すると、何も疑うことなくゆうくんは目をつむってくれた。
そして、ゆうくんの唇に自分の唇を重ねた。
「え・・・・・・・?」
いきなりのことに、ゆうくんが顔を赤らめて私のことを見つめている。
「その…いつもありがと。大好きだよ」
何回もこのセリフは今までに口にしたが、今回は特に思いが籠っている。
藤城若菜さんのことを通して、ゆうくんの愛を改めて感じることが出来た。
「俺もだよ」
そして、もう一度抱きしめ合う。
さっきよりもきつく、お互いの愛を感じるように。
「へへ、なんか照れるね……」
抱きしめ合ってた身体を離し、お互いに見つめ合う。
「そう、だな……。ほらっ、ご飯できてるし早く食べようぜ」
「うんっ!」
翌日、私とゆうくんは大木プロの事務所の近くにある、大病院に来ていた。
待合室で藤城若菜さんのマネージャーの方と落ち合い、藤城さんの病室へと向かう。
「失礼します」
マネージャーさんが扉をノックして、病室へと入っていく。
「では、お入りください」
しばらくすると、マネージャーさんは出てきて、今度は私達を招き入れてくれる。
「し、失礼します」
部屋は個室だった。窓際にベッドがあり、藤城さんは病院服姿でベッドに座っていた。
「いらっしゃい。あなた方が、愛流さんね」
「はい。この度は、お会い頂き有難う御座います」
「これ、お見舞いの品です」
ゆうくんが挨拶をし、私は行きしなのフルーツ屋さんで買った、フルーツバスケットを手渡した。
「こちらこそ、会いに来てくれてありがとう」
「体調は大丈夫なんですか?」
フルーツバスケットを渡し、そう聞いてみた。
「えぇ。重たくない病気だから、たぶん年齢的なものでしょうね。回復まではしばらく時間がかかるけど、いずれ業界にも戻れるわよ」
よかったぁ。もう一度、藤城さんの声が聴けるのか。
「それまでは、あなたが1000年文化を守ってちょうだい」
「えっ……」
「あなたのナレーションを関係者の方にお願いして聞かせてもらったわ。ネット上でひどいことを書き込まれてるみたいだけど気にしなくて大丈夫。あなたのナレーションはとても素晴らしかった」
あの藤城さんに褒められた?
「あなたのナレーションを聞いたら、誰もが納得するはずよ。藤城若菜の代役は愛流美佳で正解だって」
「でも、私は藤城さんではありません。番組の雰囲気を変えてしまってるいのではないでしょうか」
いくら、うまく代役が務められていたとして、藤城さんのナレーションで作られてきた番組の空気感を変えてしまっては受け入れて貰えないのではないだろうか。
「それは、良いことじゃない?」
「え?」
「声優一人一人、自分の味を持っている。だからこそ、演じる者によって作品の雰囲気は変わる。それが、声優のお仕事だと私は思う。愛流美佳が作り上げる番組の雰囲気、それは唯一無二のものよ。藤城若菜と愛流美佳で違う空気感、視聴者もそれを絶対に受け入れてくれる。だって、あなたのナレーションは素晴らしいから」
そうか、声優が多く存在するのは一人一人が特徴を持っているからだ。ならば、その人ごとに番組を彩ることが出来る。
それが出来るのが、声優という仕事なのか。
「私、1000年文化をしっかりと守ります。でも、将来、私の代表作といえるようにします」
「そうね。番組をよろしく。あなたは、きっと大きな声優になる」
私たちは挨拶をして、病室を後にした。
「ねぇ、ゆうくん、今日はありがとね。おかげで、自信が出た。絶対に、視聴者を唸らせてみせるから!」
「そうだな。俺も、お前が大物になる頃には、大物作家になってやる」
私は、こんなところで俯いていてはいけない。
ゆうくんとの夢を叶えるためにも。
歩み続けるんだ、ヒロインになるために。
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