16話 藤城若菜

 あれ、私、なんでベッドに横になってるんだっけ?

 そっか、ネットで自分のこと検索したら、ひどいこといっぱい書いてあって、耐えきれずに倒れちゃったんだ。そしたらゆうくんが運んでくれて……。


「…………一つお願いしたいことがあるのですが………」


 遠くで悠君の声がする。誰と話してるのかな……。



「おっ!起きたか」

「あれ、ゆうくん?そっか、寝ちゃったのか、私」

 目を覚ますと、ベッドの横でゆうくんが椅子に腰かけて、じっと私のことを見ていた。

 起きるまでそばについててくれてたんだ。

「俺ちょっと、用事で出かけてくるから。朝ごはんは冷蔵庫に入れてあるから、食べられそうだったら食べて。あんまり、無理はするなよ」

「うん…、いってらっしゃい」

「いってきます」

 そう言ってゆうくんは出ていった。

 土曜日なのに、ゆうくんが出かけるなんて珍しい。普段は家にいて、ラノベを書いているのに。それほど大事な用事なのかな。


 私は、寝すぎてダルくなった身体を起こし、ゆうくんが用意してくれた朝ごはんを食べ、食器を片付けて、リビングのソファに座って一息ついた。

「はぁ、どうしようかなぁ…」

 いつもなら、このまま事務所に向かうのだけど、今日はどうもそんな気分になれない。

 私の選択は間違っていたのかなぁ…。必死に努力してきて、ようやくそれが実ろうとしていたのに、結局は無駄な努力だったのだろうか。

 そう考えると、毎日欠かさずに行っていたレッスンにも行く気が起こらない。


 うじうじ悩んでいると、携帯の着信音が鳴った。相羽さんからだ。

『あっ、もしもし。さっき、1000年文化の台本届いたから、取りに来てくれる?私はちょっと会議に出なきゃいけないから、レッスンでもして待ってて』

「……はい」

 そっか、1000年文化のナレーションには私が必要なんだ。

 でも、世間の人には必要とされていないわけで……。


 私は、カバンに財布と携帯だけを入れて、家を出る。

 事務所に行くのは億劫おっくうだけど、仕事だからちゃんとしないと。それは、社会人としての常識だ。


 私は駅に着き、改札を通ろうとする。

「……定期忘れた」

 財布は持って来たけど、定期を入れるのを忘れてしまっていた。

 仕方ない、今日は切符買って行くか。


「……お金も全然入ってない」

 かろうじて電車に乗るだけのお金は入っていたので、切符を買って電車に乗る。




「おはようございます」

 事務所に着き、相羽さんの姿を探すが、電話の通り会議に出ているのだろう、どこにも見当たらない。

 仕方がないのでレッスン室に行き、練習をしようとするが、全く声が出ない。

 昨日泣きすぎたせいで、すごく喉が疲労しちゃってる…。


「くっそ…!こんなんじゃ、本当に必要とされなくなるじゃん……」

 自分の喉もしっかり管理できないようじゃ、声優としてダメだ……。

 しっかり練習もできない奴なんて、使ってもらえない…。


「愛流~!いるー?」

 自分の不甲斐無さに落ち込んでいると、会議を終えた相羽さんがやって来た。

「…はい」

「おっと、荒れてるね。待たせてごめんね、私のデスクまで来てくれる?話したいこともあるから」

 私は相羽さんに連れられて、デスクまで向かう。

 しかし、そこには、とても見慣れた人物が待っていた。


「あっ、お疲れさま、美佳」

「……ゆう、くん?なんで…」

 そう、待っていたのは、ゆうくんだった。

「朝言っただろ?用事があるって」

「そ、そうだけど!なんでうちの事務所にいるの?」

「ちょっと、偉い人たちと話してた」

「私も、そこそこ偉いんだぞ!なんちゃって」

「えっ!?相羽さんの会議って、ゆうくんと話すことだったんですか?」

「そういうこと」

 え?どうしてゆうくんが、うちの事務所の人たちと話してるの?

 もしかして、転職して村山事務所で働くのかな。それとも、売れない私の解雇をめぐって、夫のゆうくんに相談をしているとか…。


「ねぇ、いったいどういうこと…?」

「あぁ、美佳、実はな________」

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