14話 仲間

 遂に来た!

 私は、とある録音ブースに入り、一本のマイクの前に座っていた。

 今回私は、はじめてのナレーションの仕事『1000年文化』のレコーディングをする。


『愛流さん、準備は良いでしょうか?』


 ブースの外から、音響監督の上田うえださんが声をかけてくる。


「大丈夫です」

 台本を貰ってから、ずっと練習をしてきた。

 番組も何回も見て、藤城さんのナレーションも研究した。

 大丈夫。できるはず……。


『では、お願いします』


 上田さんの合図と共に、私の前にあったモニターから映像が流れだす。とある高校の生徒たちが、その地方に伝わる伝統芸能に勤しんでいる映像だ。

 私はその映像に沿って、台本に書かれた文字を読み上げていく。

 心を込めて、高校生たちの思いを汲み取って、丁寧に読んでいく。


『はい、ありがとうございました』


 30分間の映像が流れ終わると、上田さんの終了の合図で一通りの録音が終了となった。


『では、今から指摘する箇所を録音し直します』

「はい」


 その後、何度か再録音を繰り返して、今日のレコーディングは終了となった。


「愛流さん、お疲れさまでした」

 レコーディングが終わり、ブースの外へ出ると、番組の監督である岩隈孝雄いわすみたかお監督が声をかけてくれる。

 岩隈監督は、気前の良い、優しいおじいさんという感じの人だ。

「監督、お疲れ様です。何度も録音をし直すことになって申し訳ありません」

「いやいや、良い番組を作るためですよ。それに、あなたは初めてのナレーションだと聞いています。それであれだけ出来たら上等だと思いますよ。というか、とても感銘を受けました。とても良いナレーションです」

「そんな、恐縮です……」

「はっはっは、自信を持ってください。これからしばらくは、担当してもらうのです。自身がないと、ナレーションはできませんよ」

「はい!頑張ります」

 そうだよね。自信を持たないと。

 監督に褒めてもらえたんだ。これをバネにして、私は成長していかないと。


「監督~そろそろ移動しましょう!」

 監督と話していると、プロデューサーの江口えぐちさんが呼びかけてきた。

「おぉ、そうだね。じゃあ、愛流さんも行こうか。親睦会も、立派な仕事だよ」

 少し、いたずらっぽく笑って私のことも誘ってくれた。

 今日の親睦会は、元から決まっていたこととはいえ、監督に誘ってもらうとどことなくうれしい。


 その後、スタッフさんたちと、相羽さん、私はスタジオの近くにある居酒屋さんに入り、親睦会を始めた。

 店の一室を貸し切り、私、相羽さん、江口プロデューサーその向かいに、岩隈監督、上田音響監督、作家の尾崎おざきさんが座る。


「それでは、皆さん今日はお疲れさまでした!カンパーイ!」

『カンパーイ!』

 岩隈監督の音頭でみんな乾杯する。


「改めて、今回はナレーションを引き受けてくださり、本当にありがとうございました」

 岩隈監督が、私に話しかけてくる。

「こちらこそ、貴重な機会を頂きありがとうございます」

「先ほどの話の続きをさせてください」

 先ほどと言ったら、レコーディングの後、ブースの外で話してた内容についてだろう。

「前に、藤城さんが仰ってたことがあります」

「藤城さんが?」

「仕事を貰った時点で、自信を持たなくてはならない、と。何もしていなければ、仕事なんて絶対もらえないことです。仕事が貰えるのは、努力をしてきた結果でありその時点で、ある程度実力があるという自信を持つべきだ。みんなに認めてもらうのは次のステップだ」

 つまり、私は、梅津さんからお話を頂いた段階で実力がある。これを自信にして、次は人々に認めてもらえるように精進しなくてはならないということか。

「さっきも言いましたが、今日のナレーションは見事なものでしたよ。4年間、一生懸命努力されてきたのでしょう」

「どうしてそれを?」

「当たり前です。一緒に仕事をする仲間だ、しっかり調べさせてもらいました」


             《仲間》


 今までの声優人生で、初めて言ってもらった。

 そうか、私はこの番組に携わる一員で、仲間の一人なんだ。


「私も、愛流さんのナレーション、感銘しました」

 そう言ってくれたのは、音響監督の上田さんだ。

「今まで、藤城さんのナレーションをずっと聞いてきましたから、初めはどうなるかと思っていましたが、あなたのナレーションにかける熱量が、しっかりと伝わってきました。それでいて、伝統文化に勤しむ高校生にメッセージを送り、聞き手にしっかりと伝わるナレーション。あれは、とても素晴らしかった。改めて、これからよろしくお願いします」

 そう言って、上田さんが頭を下げてくれる。

 自分が必要とされている。『1000年文化』という番組にとって私が必要な存在となったのだ。

 私は立ち上がり、改めてスタッフの方々に頭を下げた。


「まだまだ、未熟者ではありますが、今後ともよろしくお願いします」




 始まる、私の声優人生!

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