あの人の本気

 ある日、いつものフードコートにて。あの人の本気を見せてもらいました。

 おもむろに持ち込んだノートパソコンを開くと、あの人は物凄い勢いで文字を打ち始めます。


 20~30分が過ぎたでしょうか?

 そこには1本の短編小説ができあがっていました。

「すごい」と、私は声をもらします。

 読むと、内容的にもかなりのおもしろさです。ピリッとしたアイデアがきいていて最後に驚かされます。それでいて読後感もさわやかです。

「ま、アイデアが頭の中にありさえすれば、こんなもんだよ」と、こともなげに言うあの人。

「こんなのが簡単に書けちゃうなら、私いらないんじゃないですか?」と、私は失望を含んだ声で返します。

「残念ながら、それっぽっちしか書けないよ。飽きっぽいんだ。だから短編しか書けない。長編を最後まで書き通せないんだよ」

「それでも充分じゃないですか?短編ばっかり書けば」

「いいや、それすら続かないんだよ。短編ですら書いてるとすぐに飽きてしまう。昔は長編小説だって最後まで書き通せたものだけど、最近は駄目だね。やる気が起きやしない」

「もったいない」と、私は言いました。

 ほんとうに心の底からそう思っていたのです。これだけの能力があるならば、なんだって書けるだろうに。打ち込みスピードだって、私なんかよりも断然速いし。


「だから君を育ててるんだ。自分でできないから。だから、自分の夢を誰かにたくしたかった」

 言葉短めに語ったあの人のセリフもまた本物でしょう。それほどに心がこもった言い方でしたから。あの人と同化して、心の底の想いがダイレクトに伝わってくるような気がしました。

「できるかな?私に?」

「できるさ。君の才能は本物だ。スピードも量もどんどん増している。書いている小説の内容だって悪くない。今に打ち込みスピードの成長が止まったら、今度は内容に集中して訓練していけばいい。そうすれば、今度は中身が成長し始める。誰も追いつけぬほどにグングン伸びていくはずさ」

「ほんとうにそうでしょうか?」

「ほんとうにそうだよ。そうして、代わりに夢をかなえてくれ。この世界で最高の作家となり、誰も見たことのない傑作をこの世に生み出すという夢を」

 そんな風に言われたら、私だってやる気を出さざるを得ません。

「どうにかして、この人の代わりになりたい!代わりに夢をかなえてあげたい!」

 そう強く決意するのでした。

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