アンソニー・トロロープのように
あの人から聞いたアンソニー・トロロープの話を思い出していました。そして、そのお母さんの話を。家族を養うために職業作家として小説を書き続けたフランセス・トロロープ。でも、それが意外にも人気作家になったそうです。
逆にアンソニー・トロロープの方は、最初は人気作家だったのに、自伝を発表してからガタリと売り上げが落ちたそうです。
当時、小説家というのはインスピレーションによって作品を生み出す者であり、小説というのはある日突然天から降ってきた神の啓示のようなものだと考えられていたのです。
それが、「まるで機械のごとく正確に文字を打ち続けていた」と自伝に書かれていたものだから、読者はみんな失望してしまったのです。
でも、私はそんな姿に
「あんな風に書けたらいいな。何も考えず、物語の世界に没頭し、ただ規則正しく文字を打ち続ける。そんなことができたら素晴らしい!」と、そう思うようになっていたのです。
人の願いはかなうもの。
心の底から憧れ、願えば、いつの日か人はその憧れの存在へと姿を変えるのです。
コツコツ、コツコツ。
時計を15分ごとに眺め、進んだ文字数をチェックする。規則正しく書き進める。まるで機械のように。気づくと、いつの間にか私にもそれと同じ芸当ができるようになっていたのです。
実際にはチェックしていたのは1時間ごとでしたし、完全に規則正しくというわけにはいきませんでしたが。それでも、アンソニー・トロロープのように、一定の時間内に一定の文字数以上の物語を生み出すことに成功したのでした。
「あとは、これを維持するだけだわ!」
心の中でそんな風に叫びながら作業を続けていきます。
ところが、そう上手くはいきません。
確かに1時間あたりでは素晴らしい業績を上げることができました。あの人の話によると、アンソニー・トロロープは15分ごとに250ワード。日本語でいうところの500文字以上を
それに対して、今の私は最速で1時間に3000文字。いくらあの時代には存在しなかったパソコンを使って作業しているとはいえ、これは立派なものです。
でも、それが長くは続かないのです。
1時間に3000文字進んだかと思えば、次の1時間には1000文字しか進まなかったり。それならばまだマシな方です。1000文字どころか全然書けなくなってしまうことも多く。全く安定しません。
あの人にそのことを相談すると、「最初はそんなもんだよ。君にはまだ持久力がないんだ。短距離走で一生懸命走っているだけ。あるいは、最大瞬間風速は凄いけど、あっという間に消えていく台風みたいなものだ」という答えが返ってきました。
残念ながらその通りです。私には持久力がないのです。どんなに短時間でたくさん書けても、それが長続きしない。
「こんなことでは駄目だわ!こんなんじゃ一流の作家になんてなれはしない!もっと!もっと長く書き続けられるようにならないと!」
こうして、私の次の課題が決まりました。
ただ単に速く書けるだけではなく、それを維持することができなければ、と。
人は変われる。いつの日にかきっと!
人は自分の願った姿になれるのだから!
その言葉を信じて、私は今日も書き続けるのでした。
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