作家のスタイルー3

 さらにお話は続きます。

 私は執筆時間について質問してみました。

「みんな、どのくらい書いてるんですか?1日何時間くらいとか」

「執筆時間は1日に3~4時間って人が多いね。歴史に残る“文豪”と呼ばれるような人は大体そんな感じかな。現代でもそうなんじゃないかな?」と、あの人は答えます。

「意外と少ないんですね。もっと長い時間書いてるのかと思ってました」

「精神的に疲弊する仕事だから、長く続けられる人が少ないんだろうね。たとえ長時間書いたとしても、あまりいいモノにならないことも多いし」

「なるほど。確かに疲れちゃいますもんね」

「さっき言ったアンソニー・トロロープもこう語ってる。『作家なら誰でも知ってると思うけど、いい作品を書けるのは最大で3時間。1日に3時間までだ。それ以上は何を書いても駄目になる』って。彼は一見するとビジネスで小説を書いていたように思われるかもしれないけど、そのじつ、しっかりと内容のことも考えていたわけさ」

「偉い人だったんですね」

「どの作家に聞いても、大体そんなものさ。1日の執筆時間は3~4時間程度。後は好きなことをして過ごす。もちろん、アイザック・アシモフやバルザックみたいに朝から晩までずっと書き続けていた人もいるけど」

「時間があるんだったら、もっと書けばいいと思うんですけど。他のお仕事しながらは難しいでしょうけど。私でも毎日2~3時間くらいは書けるんだもの。もっと時間があって才能もある人なら、1日中でも書けそうなものなのに」

「どうだろうね?書けば書けないことはないだろうけど、やはりいい作品にならないんじゃないかな?あるいは、それこそが才能の限界なのかもしれないけれど。真に才能のある人なら、何時間でも書けるのかも」

「そんなものなのかな~?」と言いながら、私は「ちょっと挑戦してみたいな」という気になっていました。もしも、私が小説を書くだけで生きていけるようになったら、朝から晩まで毎日ずっと小説を書き続けることに挑戦してみたいな、と。

 ほんとうにいい作品が書けなくなるのか?それともやればできてしまうのか?実際に試してみたい気になってきたのです。


 その後もあの人は続けます。

「昔の文豪でよくあるパターンはこんな感じ。朝起きて、午前中の内に執筆。お昼過ぎには仕事を終えて、あとは自由時間。昼食の後、散歩に出かける。3時間くらいたっぷり。もちろん、この時間もただ単に散歩しているわけじゃない。『次の章は何を書こうかな?』とか『どこかにおもしろいアイデアは転がっていないかな?』なんて考えながら歩いている。そして、夜はお酒を飲みながら、友達や家族と過ごす」

「なんだか、遊んでばっかりですね。小説を書くのはちょっとだけで」

「もちろん、インターネットもテレビもなんにもない時代だからね。娯楽が少ない時代だったから、本を読んだり、小説を書いたりできたのかも。現代に生まれていたら、もっと全然違う人生を歩んでいただろうね」

「私、あんまりそういうのしないです」

「ネットもやらないし、テレビも見ない?」

「そうですね。インターネットは、たまに使うこともあるけど。何か調べたりする時に。あとは、メールくらいかな?テレビも全然見ないし。前はお友達と会ったりしてたけど、今は忙しくてそれどころじゃないし。お仕事に行って、小説を書くだけで精一杯なんです」

「それは、とてもいい傾向だと思うよ。むしろ、だから小説が書けるんだなって納得したよ」

「そういうものですか?」

「そういうものさ。現代は、とかく雑音が多い。雑念も入りやすい。みんな何かといそしいよ。働いたり、遊んだり。多くの人たちは無駄な時間を過ごしてばかり。どうでもいいような雑務に追われ、どうでもいい快楽のきょうじて過ごす」

「でも、楽しければそれでいいんじゃないですか?」

「もちろん、そういう生き方もある。それを否定するつもりはない。ただ、歴史に残るような作品を残すためにはそれではいけない。“ほんとうに大切なこと”に力をそそがなければならない」

「ほんとうに大切なこと?」

「そう、たとえば小説を書いたり、絵を描いたり、マンガを描いたり、曲を作ったり。君みたいにね」

 確かに。この人と出会うまでの私は、その“大切なこと”を知らずに生きてきたように思います。だから、どんなに一生懸命生きているつもりでも、日常の日々がつまらなかったし、心のどこかにポッカリと穴が空いたような感じがしていたのでしょう。

 でも、今の私は違います。自分が何をやるために生まれてきたのかわかっているし、そのために毎日努力も続けているつもりです。

 だから、しばらくの間、この生き方を続けてみようと思っています。

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