作家のスタイルー2

 あの人は、そのまま続けます。

「作家のスタイルってのはさ、自分で決めていくしかないんだ。“これが正解!”というやり方はない。どのやり方にも一長一短ある」

「じゃあ、私のスタイルも私自身がみつけるしかないってことですね?」

「その通り。ただし、他の作家のやり方が参考になることはある。だから、いろんな作家の方法論を学んで、片っ端から身につけていくんだ。その上で、最終的に自分に一番合ったやり方を選べばいい。いわば、それが“システム作り”ってわけ」

「たとえば、どんなやり方があるんですか?」と、私はたずねます。

「たとえば、執筆時間。朝起きてすぐに書き始める人もいれば、お昼頃に目覚めてゆったりと過ごし、ボチボチ書き始める人もいる。中には一日中遊んでいて、深夜になってからようやく執筆開始、なんてタイプもいる。でも、その方がいいモノが書けるんだったら、それがその人にとっては正解さ」

「なるほど。でも、私はお仕事をしながらだから、時間は限られてきますね」

「そういう人もいるよ。他に仕事を持ちながら、かけもちで小説を書いてる人。現代にもいるし、昔もいた。たとえば、19世紀に活躍したイギリスの作家アンソニー・トロロープ。日本ではほとんど無名だけど、イギリスではかなり著名な作家だよ」

「どんな人だったんですか?」

「アンソニー・トロロープは、郵便局員をしながら小説を書いてた人。赤い郵便ポストを発案したのがこの人だと言われている。毎朝5時には起きて、執筆開始。最初の30分は昨日書いた原稿を読み直し、残り2時間半でその日の分を書いていく。15分ごとに時間をはかり、キチっと同じ文字数を書いたという。時間が来たら出勤。1日中、郵便局員として働く。ひたすらにその繰り返しさ」

「なんか凄い人ですね。私には、ちょっとそのやり方は無理かも」

「この人は、お母さんも作家でね。完全に職業作家。ビジネスとして小説を書いていた。家族を食わせていくために小説を書いてお金をかせいでいたわけ」

「それでいい作品が書けたんですか?」

「どうだろうね?読んだことがないからわからないけど。でも、人気はあったらしいよ。当時の大流行作家だったって話だから」

「へ~、凄かったんですね」

「ただ、勘違いしないで欲しいのは、作品の質と人気は別だってこと。たくさん売れているからいい作品とは限らないし、歴史に残るような大傑作も作家が生きている間には全然売れていなかった、なんてこともよくある」

「ウ~ン。難しいですね、小説って」

「難しいね。君がどっちの作家を目指すかは、君自身が決めればいい。ただ、個人的には質を重視して欲しいね。『いい作品を書いていれば売れなくてもいい』と言っているわけじゃない。でも、お金を稼ぐためだけに小説を書くような、そんな魂を売るようなマネだけはして欲しくないって話」

「わかってます。大丈夫ですよ。そんなことにはなりませんから♪」

「だといいんだけど。まあ、理想としては、自分の求める作品を書きながら、その上で数も売れる。そういう作家かな?ただし、それは非常に難しい。至難しなんわざと言ってもいい。いい作品を書くだけか、売れるだけ。どちらかだけならそう難しくはない。だけど、両方同時にってのは大変なものさ」

 私は、首を横にひねりながら答えます。

「私、まだ書くだけで精一杯で、そこまでは考えられないんですけど。いい作品が書けるようになるかもわからないし、売れるかどうかもわからないし」

「それでいいよ。むしろ、そこがいい。小説ってのはそういうものさ。純粋に書くことが好きで、書くことに没頭する。それが一番理想的。そもそも、自分が生み出した作品がいい作品かどうかなんて、作家自身もよくわかっていないんだ。誰にもわからない」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。もちろん、書いている時には絶好調で、書きあがった瞬間には『なんて素晴らしい作品なんだ!これは傑作だ!自分は天才なんじゃないか!』なんて思ったりする。でも、時間を置いてから読み直してみると、急に自信がなくなってくる。その繰り返しさ」

「ウ~ン、なんかお話を聞いてると気が滅入めいってきますね」

「だからこそ、余計なことを考えずに純粋に書くことに没頭した方がいいんだよ。その方がいい作品になりやすい。『よっし!いいモノを書いてやるぞ!』とか『これでお金を稼いでウハウハの生活をしてやる!』なんて邪念が入らない方がいい。大抵は、そんなもの読めた代物しろものじゃなくなる」

「じゃあ、今のままの私でいいってことですね?」

「その通り。君は君のままでいい。ありのままの君でいい。きっと、その瞬間が一番いいモノが書ける!」

「わかりました!やってみます!」

「そもそも作品の評価なんて人それぞれなんだ。作家が『傑作が書けたぞ!』と思った自信作が、読者や編集者からボロクソに言われたりする。そうかと思えば、『全然ダメだな』と思っていた作品がなぜだか大絶賛されたりもする。編集者が『はしにも棒にもかからない』と判断した小説が何百万部も売れることだってある。あてにならないってことさ、人の評価なんてものは」

「じゃあ、何を基準に書いていけばいいんですか?」

「そこが難しい。永遠の課題だね。自分を信じて書き続ける者もいれば、人の評価を気にしまくる者もいる。絶対の基準などありはしないと、本が売れた数だけを評価の対象にする作家だっている。それすら、それぞれの作家のスタイルというわけさ」

 なんだか思っていたよりもずっと奥が深い世界みたいです。

 いろいろと考えると、段々頭が混乱してきちゃいます。

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