作家のスタイル

 巨大ショッピングモールにあるフードコートにて、いつものようにあの人と会ってお話をしています。

「小説家なのに小説を書きたくない人ってのは多いものだよ」と、あの人は切り出します。

「自分が好きなことをお仕事にしているのに、やりたくなくなっちゃうんですか?」と、私はたずねます。

「そうだよ。そういう人は多い。大体、作家なんてのはそういうものさ。小説家でもマンガ家でもイラストレイターでも、みんなそう。他の仕事をやりたくなくて、散々いろんなものから逃げてきて、どうしようもなくなってたどり着いた人が多いんだ」

「へ~、そういうものなんですね」

「でも、不思議とそういう人の方がおもしろいモノが書けたりする。創作の世界ってのはさ、あまりにもマジメすぎると向かないものなのさ。いい意味で“いい加減さ”ってのが必要になってくる」

「じゃあ、私は向いてないのかな~?」

「どうだろうね?センスはあると思うけど。それに、ひたすらマジメに書き続ける能力ってのは、強力な武器になる。他の人たちができないからこそ、なおさらね」

「なるほど」と、私は感心します。それと同時に安心します。こんな私でも、まだまだチャンスがあるんだなって。

「小説家も大きくわけて3つのタイプにわかれる」

「3つのタイプ?」

「いろんなわけ方があるけど、執筆のスタイルからいって3つ。1つは、小説を書くのが好きで好きでたまらない人。こういう人は、放っておいてもガシガシ新作を書いてくる」

「そりゃそうですよね。だって、書くのが好きなんだもの」と、私はうなずきながら答えます。

「2番目は、小説を書くのが好きじゃないタイプ。こういう人に作品を書かせるのは大変だよ。『いかにしてサボるか?』『どうやってしめきりを伸ばすか?』そればっかり考えているような人たちさ」

「小説を書くのが好きじゃないのに、小説家になったんですか?」

「さっきも言ったように、他にできる仕事がなかったからやってるだけさ。彼らはなるべく楽にかせいで、自由に生きていきたいだけなのさ」

「変なの」

「でもね。そういう人だって、書いてる作品が一流であれば、作家としても一流さ。執筆のスタイルとしては感心できないけどね。態度としては二流三流。それでも内容さえよければ生き残っていける。ここはそういう世界なのさ」

「ふ~ん。じゃあ、3番目のタイプは?」

「3番目は、小説を書くのが好きでも嫌いでもない人。あくまでビジネスとして執筆している。だから、ひたすら淡々たんたんと書き続けることができる」

「へ~、そういう人もいるんですね」

「もしかしたら、そういうタイプが一番作家に向いているのかも。できたものがどうにしろ、しめきりはきっちり守って安定して作品を量産できるからね。読者や出版社としては一番ありがたい存在なんじゃないかな?」

「なるほど~」

 あの人はコーヒーをひと口すすってから続けます。

「小説ってのはさ。大変なものだよ。日記やエッセイを書くのとは違う。インターネットの記事を書くのとも全然違う。全部ゼロから生み出さなければならない」

「そうですね。それは、自分でやってみてわかりました」

「いや、正確に言えば全くのゼロから生み出してるわけではない。それでも、想像力に頼る部分は大きい。消費する精神エネルギーもはかり知れないものがある。そんな作業を毎日続けるだなんて、並大抵なみたいていじゃない。よほど強靭きょうじんな精神力の持ち主か、さもなければ理想的なシステムが必要となる」

「システム?」と、私は問い返します。

「そう、小説を書くためのシステムさ。前にルーティンワークの話をしただろう?それだってシステムのひとつさ」

「毎日、同じ場所で同じ時間に同じ音楽をかけながら書くっていう、アレですね」

「他にも、ポットいっぱいの紅茶を用意してから書き始めるマンガ家もいれば、1日に何十杯もコーヒーを飲みながら執筆する小説家もいる。噂によれば、お酒を飲みながら書いてる人もいるらしい。その方が調子が出るとかなんとか。ほんとかどうかわからないけどね」

酔拳すいけんみたいですね」

「フフフ、そうだね」と、あの人は笑いながら答えます。

「でも、どんなやり方でも毎日書けるんだったらいいですよね?」

「もちろん。でも、プロの作家だって、みんなができるわけじゃない。むしろ、プロの中でもそんな芸当をやってのけられるものは、ほんの一握りしかいない。毎日書き続けるってのは、それほど大変なんだ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。でもね、それでも君にはそんな風になって欲しいんだ。書いてるモノは一流だけど、執筆態度は二流三流。そんな作家にはなって欲しくはない。書いてるモノも一流なら、執筆態度も一流。それ以外も全部一流。そんな作家になって欲しいわけ」

「わかってますよ。そうして、そのためにいつも私は努力しているつもりです」

「それは、とても偉いと思うよ。とてもとても偉いと思う。きっと、それは最強の武器になる。毎日安定して書き続けるだけでも大変なのに、その上クオリティも高いだなんて」

「まさに鬼に金棒ですね」

「もちろん、そんな理想の作家なんて、この世界にほとんど存在しないとわかってはいるけれども。それでも君にはそうなって欲しいと思っている。きっと、その先に一流の壁を越えた超一流の作家の世界が広がっているはずだから」

「私も見てみたいと思います。その超一流の世界というものを」

 それは、ほんとの気持ちでした。どうせやるんだったら、誰も到達したことのない場所まで行ってみたい。他の人たちが見たこともない景色を見てみたい。

 その気持ちは、私の中でますます強くなっていくのでした。

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