最初に思ってたのと全然違うのになっちゃったんですけど

 ひさしぶりにいつものフードコートで、あの人と会ってお話をしました。

 お互いなんだか忙しくなっちゃって、顔を合わせてお話をするのは10日ぶりくらいです。

「最初に思ってたのと全然違うのになっちゃったんですけど」と、私は切り出します。

「どういうこと?」と、あの人は不思議そうな顔で返します。

「書きかけの小説、『ミコトとレン』です」

「どう違うのになったの?」

「だって全然SFじゃないし。ミコトとレンが全然仲良くならないし。あんまり夫婦っぽくないんですよね。おまけにレンって結構ひどい性格で。ちっとも魅力的じゃないし」

「ああ、そういうことね。別にいいんじゃない?」と、あの人はこともなげに答えます。

「いいんですか?ほんとに?」

「いいよ別に。たとえ、最初に予定していたのと全然違った形になったとしても、それがいい小説になってるんであればね」

「そうなんですか?」

「それよりも、一番よくないのは『当初予定していた通りに合わせないといけない!』という意識が強くなりすぎて、小説が死んでしまうことさ」

「小説が死んでしまう?」

「そう。頭でっかちで、形ばかりで、内容的に全然おもしろくない小説のこと」

「そうなってません?私の小説」

「なってないね。縦横無尽じゅうおうむじん好き勝手に進み続けていて、おもしろいと思うよ」

「ならよかった♪」

 あの人の言葉を聞いて、私も安心します。


 そうなんです。ひとりじゃ駄目なんです。目の前にいるこの人がいないと駄目なんです。お仕事が忙しいとかなんとか言ってたけど、結局はそこじゃなかったんです。私があんまり小説を書けなくなっちゃったのは。

 今回のことでよくわかりました。やっぱり私はお金のために書いてるわけじゃないんだって。誰かのため、何かのために書いてるんです。たとえそれがひとりでもいいんです。この世界でたったひとりでいい。私のことを信じてくれる人、私の書いている小説を信じて読んでくれる人、それが必要なんだって。


 世界にはいろんな人がいます。

 何があれば幸せになれるのか、それは人それぞれ。

 たっぷりとゆとりの時間がないと幸せになれない人。

 お金が手に入りさえすれば幸せになれる人。

 バリバリと仕事をしている時に最高の幸福を感じられる人。

 みんなからチヤホヤされた瞬間に、至福の時となる人。

 私にとっては、それが小説とこの人なんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る