文字数が書けないんですけど

 『ミコトとレン』をインターネット上に公開し始めたある日のこと。

 その日はどうしても調子が上がらず、なかなか小説に取りかかることができませんでした。

 ようやく最初の2~3行を書くことができ、その後はサラサラと書き進めることができたのですが、それでも総文字数は1100文字程度。「できれば3600文字は書くように」と言われていた時期だったので、目標の数字には遠く及びません。

 どうしてもそれ以上は進みそうになかったので、あの人に電話で相談してみました。


「あの、どうしても文字数が書けないんですけど」と私が切り出すと、「どういうこと?」という返事が返ってきます。

「今書いている『ミコトとレン』なんですけど。今日は調子がよくなくて。凄くたくさんストーリーを消費してるのに、こまかい部分が書けなくて。どんどんお話は進んでいくのに、文字数が増えなくて困ってるんです」

「なるほど。で、何文字くらい進んだの?」

「どうにかがんばって書いてみたんですけど、それでも1000文字ちょっとしか書けなくて。どうすればいいですか?」

「確か、今は最低2400文字。できれば3600文字以上書く時期だよね?」

「はい」

「まあ、いいんじゃない?どうしても書けない日ってのはあるものだよ。その分、こっちの『音吹おとぶき璃瑠りるの誕生』を進めていけば?そのための2作同時連載なんだから」と、あの人。

「あ、なるほど」と、私もすぐに納得します。

「それか、『ミコトとレン』の方を2話進めるとか。1話あたりは短くなってもいいから、1日に2話とか3話更新してもいいし」

「そういうのでいいんですか?」

「いいよ、別に。1日に1話ずつ進めなきゃいけないなんてルールはないから」

「わかりました。じゃあ、それでやってみます」

「言っとくけど、無理して文字数を水増ししようだなんて思わない方がいいよ。それこそ書き殴ってるのと一緒だから。そんなことするなら、丁寧に書き進めて短いままの方がいい」

「あ、やっぱりそうですよね」

「そう。無理して水増しした5000文字よりも、最低限の表現だけで形成された1000文字の方がよっぽど価値がある。仮に、それが500文字であったとしても同じ」

「そうですよね。やっぱり、無理やり文字数を増やすのはよくないですよね」

「それに、どんな作家だって調子が悪い日というものはある。それでも毎日がんばって机にかじりつく。原稿用紙やパソコンの前に座って、ウンウンと頭を悩ませながら、どうにかこうにかその日の分をひねり出す。そういうものなんだ」

「どんな作家でも?」

「そうだよ。それは、超一流と呼ばれる作家でも同じ。どうしても書けない日はあるものさ。もっとも、それでもどうにかして書くのが一流の作家ってものさ。絶好調の日にバリバリ書きまくることならば誰にでもできる。問題は、調子の悪い日に、いかにしてそれなりのパフォーマンスを発揮するか?それが一流と二流以下の差だよ」

「一流の作家になるって大変なんですね」と、私は半分落ち込みます。

「君は今までうまく行き過ぎていたんだ。この辺で一度スランプを経験しておくのもいい」

「スランプですか?」

「そう、スランプだ。どんなに頭をひねっても、どうしても書けない時期のこと」

「私、スランプなのかな?」

「まあ、1日くらいじゃなんとも言えないけど。その状態が何日も続くようならば、確実にスランプだと言えるだろうね。でも、そうなる前に解決しておいた方がいいとも言える」

「どういうことですか?」

「何日も書けない日が続けばスランプとなる。だったら逆に、1日でそれを終わらせればいい。書けない日を作らないようにする。いかなる手段を用いても書き続ける」

「どうやって?どうって書けばいいんですか?」

「そんな日にどうするか?音楽を聞くか?散歩に行くか?お菓子を食べるか?人によって方法は違う。いずれにしても何らかの方法で次の行を書き進める。時には、血反吐を吐きながら。もちろん、それはたとえ話だけど」

「大変なんですね。でも、わかりました。とりあえずやってみます」


 というわけで書いたのがこの文章です。

 調子が悪いなら悪いなりに、書けるものってあるものなんですね。


 以前にあの人がこんなことを言っていたのを思い出しました。

「よい経験も、悪い経験も、全て君が小説を書くためになる」

 今回の“どんなにがんばっても、小説が書けない”という経験も、新しい小説を書くためのかてとなったわけです。

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