6. リクルート
6-1
ミモリから電話があったのを知らされたのは、夜が明けて騒ぎがひとまず沈静化した頃だった。ラジオのニュースを聞いたらしい。
朝、空港に何食わぬ顔で顔を出したところ、事務員が、電話があったことを教えてくれた。ロビーの公衆電話でロッカ社の番号を呼び出すと、開口一番悲鳴のような声。僕はさすがに悪い気になる。
「大丈夫、大丈夫だから」
「ほんとに心配だったんだから……街が爆撃されたって聞いて」
「狙われるのは空港だけだ。そういうルールだよ」
「うん……」
「それに、飛行士が死ぬのなんて、別に珍しいことじゃない」
「友達は違うよ!」
僕は友達だったのか。
少なからずそれに驚く。
友達。変な言葉。不思議な言葉だ。
僕はそれには曖昧な相槌。素直にそうだと言ってやれないのを、ほんの少しだけ申し訳なく思いながら。
「まあ、昨日の騒ぎがあった後だから、客が、今日は飛ぶかどうかわからないって、さっき連絡があった。二時間くらいで今日の予定が決まるから、それまで僕は適当に暇をつぶしている」
「わかった。……あんまり空港に近づいちゃ駄目だよ」
「バス機の面倒を見ないと」
「機体は無事だった?」
「平気。ずっと外れのほうに停めたから」
「とにかく、今は軍関係の施設には近づかないほうがいいかも」
たとえ荒野のど真ん中にいたところで、増槽や空薬莢が空から落ちてきて死ぬ確率はゼロじゃないのだけど、それは口にせず。
「うん、まあ、わかった」
いくつかの打ち合わせの後、電話を切る。昨夜があの状態なので、電話を使いたがる人は多い。僕は待たせた相手に頭を軽く下げて、事務所から出た。
軽率だったのは認める。昨日の僕は本当にどうかしていた。
でも自分の情動がすべての理性を封じ込めてしまったみたいに、あのときはああする以外の行動が何一つ思い浮かばなかったんだ。飛行機は一度飛んでしまったら、墜ちるか着陸するまでは(つまり強弱の違いはあれ地面に叩きつけられるまで)飛び続けるしかない。多分、それと同じ。
ミモリは理解してくれるだろうか。でも彼女は地上の人間だ。きっと無理な相談だろう。
それに、理解してもらいたいのかと自問すれば、恐らくそうは思っていないだろう、僕は。
別段、不思議なことではない。
空の密理はパイロット達それぞれのものだ。飛行の喜び以外に僕らが共有し得るものはない。それぞれが胸の中に
空港の本屋で時間をつぶしていたら、呼び出しでまた事務棟に。クライアントからの電話で、今日はもう移動することはないから、改めて後日チャーター便を探すとのことだ。つまり僕は一旦、お役御免。違約金などの連絡は本社とするようにとだけ伝えて、それを報告したら仕事から解放された。
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