第3話 キッカケ

その夢で自分は、空を飛んでいた。

何か見たことのない物に乗っていた。

左手は誰かの手を引いていた。

何かから逃げているのだけれど、何故か楽しくて仕方がなかった。

そんな夢。




「こんばんは」

その声が素敵だった。


資格を取る為に入った学校で知り合った。

背が高くよく笑う、骨格のしっかりした、目の大きくて綺麗な方だった。

学校に勤めている方だった。


以前失恋してから、恋愛に後ろ向きだった。

色んな女性と知り合って、出かけたりしても、何となくそれ以上に関係を進めようと思えなかった。

綺麗な人だとか、話や趣味が合うとか、一緒にいて楽しいとは感じても。


けれどその方は色んな手続きの説明をして頂いた時にプライベートな話で盛り上がって、その時から気になっていた。

昔やっていたゲームや好きな番組の話が合った。

学生の頃に絵を描いてた事が一緒だった話をしたのがキッカケで、絵を描き始めた。

この人といると、自分が動かされると感じた。

色んな人と出会って、お酒を飲んだり、話したり、遊びに行ったりしてきたけれど、そんな風に感じる人はいなかった。


会うと必ず話せた訳でなかったけれど、見かけるだけでも嬉しかった。





通い始めて1カ月経った頃、

彼女が退職する事を知った。


その間に話したのは、5回位だったがすっかり好きになっていた。

好きだと感じた理由は分からないが、タイプだったのかもしれない。


退職するのを知った後も、話はしたが踏み込めなかった。

俺と同じように好意を寄せている人が、告白しているのをたまたま聞いてしまった。

空いている教室で、勉強していた所、隣の教室から聞こえてきた。


雑談の途中で、真面目な話が始まった。

「君の事が好きなんだけど。付き合ってよ。」

「・・・ごめんなさい。人と付き合ったりするの、私には向いてなくて、、一人で生きていきたいと思ってて。」

「一人で生きていくなんて言わないで。僕は君を自分よりも大事にしたいと思ってるんだ。」

「・・自分より人を大切になんて思えないし、私なんかにそんな風に思うなんて無駄だよ。」

「一人で生きていくって、、孤独じゃないか。。」

「私はそれが良いの。」


恐らく告白していた男性は、自分よりも知り合って長い印象があった。

目の前で振られている状況を見て、ショックだった。


退職するのだから、声を掛けても良いのかとも思ったけれど、

どうしても踏み出せなくなってしまった。


その日の後も、何度か会って話す機会があった。

基本的で手続きをする度に話していた。

人が少ない時間帯に行っていて、暇だったから話す時は1時間でも話してた。

告白しようと思う度に、振られた彼の事が頭に浮かび、告白出来なった。


この前の振られた人が退職後に何をするのかを聞いても、のらりくらりとはぐらかしていた。

けれど、友人としてなのか教えてくれた。

「私は、DDへ行くの。」

「え!?」

仮想世界(DD)行きを募集する企業が増えた。

企業によってDDへ人を送る理由は大きく違った。

法がなく、戦争も多い。

ゲームの話が合ったのは、DDの中でも安全な場所で行われるものを昔やっていたから。

「空を飛ぶ感覚が忘れられないの。」

彼女は昔、無数にあるゲームの中で、「空を飛んで戦う」ゲームをやっていた。

因みに私も空を飛ぶゲームが得意であったが、事故にあってからは飛ぶ事も乗り物に乗るゲームにも苦手意識を持ってしまっていた。


言い訳かもしれないけれど、その話を聞いて、余計に告白なんて出来なくなった。

DDに入るという事は、現実の世界での生活と両立するのは難しい事が分かっていたから。


一度入ったら、年単位で出てこない人も多い。

危険も多く、命を落とす事もある。

それでも、現実では出来ない非常に多くの事が出来る。

DDについて研究している組織について、かつて興味があり調べていた。

けれど家族の反対や自身のなさから、そちらに進む勇気がなかった。

「赤崎くんは、DDに興味はないの?」

「興味あるよ。ゲームにはまって、色々調べてた事もあるよ。」

「DDに行かない?」

「えっ!?」

「興味あるんでしょ?」

「そうだったんだけど、、。」

「もし行ったらさ、、いつか会えたら良いね。。」

「・・・うん。。・・・会えたら良いね。」


この時の私には、以前DDに行きたいと家族に相談した時に猛反対された事があって、それを振り切っていける自分がなかった。


彼女の最後の出勤日の日、行けなかった。

顔を合わす勇気がなかった。

勝手に、諦めよう。と自分に言い聞かせてた。

顔を合わせたら、諦められる自信がなかった。


ほんの1カ月だけの知り合い。

簡単に忘れられるだろうと思っていた。


最後に

「元気でね。」

と会いに行かなかった代わりに、メモを残した。


この時、会いに行かなかった事を後に何度も何度も後悔した。


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