思いがけない対戦相手(前)
◇
いよいよ試合がせまってきた。緊張で胸がバクバクとなり、一つ前の試合は見ているようで見ていなかった。
「ウォルター、俺達の
スコットから差しだされた手を取って立ち上がった。
「がんばれよ。僕らの生活が君の肩にかかっているんだぞ」
「負けたら承知しないからね」
ロイとクレアにプレッシャーをかけられながら、スコットと一緒にフィールドへ向かう。ふと敵陣を振り向くも、まだトレイシーは姿を見せていなかった。
「よし、ウォルター。最後のおさらいだ。ジェネラルが見せた『
氷の魔法は絶大な破壊力と
風の魔法が優れているのは
「よし、『風』の
スコットの何とも言えない応援に送りだされ、消えかけの目印がついた
まだトレイシーは現れない。さっき事務局の人に聞いてみたら、すでに会場へ来ているという話だったけど。
「ウォルター! がんばってくださーい!」
スージーの元気な声援がとんだ。観衆からちょっと笑いが起こった。
ほどなく、人ゴミの中から男がフィールドへ出てきて、ちょうど
男に顔を向ける。あ然となった。目を疑った。ふいに先日の記憶がフラッシュバックした。その立ち姿には見おぼえがあった。
男とは
忘れるわけがない。見まちがえるわけがない。対戦相手として現れたのは、僕らを
男がこちらを見た。顔をななめにかたむける、ちょっとしたしぐさまでそっくりだ。あの時、あいつは死んだはずだ。そうでないなら、あの黒こげの死体は誰だと言うのだろう。
周囲を見回す。なぜ、誰も疑問に思わないんだ。どう見ても、あいつはトレイシーじゃない。制服だってボロボロだし、だいいち、あれは〈
「始めてください!」
考えがまとまらないうちに、試合が始まった。この会場には、トレイシーを知っている人間が誰一人としていないのだろうか?
男がいきなり歩きだす。しかし、数歩進んだところで立ち止まって、不気味な笑みをうかべながら、
男はおどけるように両手をあげ、再び手招きをした。不用意な行動は命取りになる。けれど、行かなければ。あいつには聞かなければいけないことがある。
男の誘いに乗った。
「私に聞きたいことがあるんじゃないか?」
「……あなたはトレイシーじゃない」
「そうだ。私はトレイシー・ダベンポートではない」
意外にも、男はあっさり認めた。目的は何だ。なぜここに来た。
「しかし、まわりの反応はどうだい? 君と連中との認識は
「君が正しい。事実、私はトレイシー・ダベンポートではない。けれど、まわりの連中には、私がその男に見えているのさ」
簡単に受け入れられる話ではない。けれど、そうとしか思えなかった。つまり、この男は他人に成りすませる能力者であり、本当の姿を僕にだけ見せているということか。
「君が正しい。君が正しいんだよ、トリックスター」
「……どうしてそのことを」
思わず動揺してしまい、男がしたり顔を見せた。
「まわりの連中には秘密だったのかい? この体の真の姿を見きわめられる。君がトリックスターである何よりの証拠じゃないか」
そういえば、パーティーの日に会った女も、よく似たことを言っていた。それに雰囲気もよく似ている。
「私はローメーカーの使いでこの国へ来た」
「……ローメーカー?」
「かつての
「あなたが何を言っているのかわからない」
自身をふるい立たせるように、言葉に力をこめた。そうしなければ、相手の勢いにのまれそうだった。
「もう始まってますよ!」
「とぼけているわけではないか。ローメーカーも君の居場所を知らないと答えていたしね。それなら、教えてあげよう。仲間の名を忘れているのも、この『
「『最初の五人』……?」
「少し昔話をしようじゃないか。その二つは同じ出来事に
男は表情やジェスチャーが大げさで、人をからかうような態度をとり続けている。
「
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