ジェネラルVSギル(後)

     ◆


 ギルは大技の乱発という稚拙ちせつな戦法を取ることで、ジェネラルの油断を引きだした。わるあがきに見えた連続攻撃も、ひそかに足もとへ張った氷から、相手の注意をそらすのが目的だった。


「単にころんだんじゃないみたい」


 クレアがその事実をいち早く見ぬいた。


「氷か!」


 スコットも目を見張って、驚愕の声を上げた。クレアは自分自身もギルの術中じゅっちゅうにハマっていたことに気づき、表情をけわしくした。


「そんなことしてもいいんですか?」


 ウォルターが隣りのパトリックに耳打ちした。


「古典的な戦法ですが、相手の移動を制限するため、足もとに氷を張ることはめずらしくありません」


 好機をのがすまいと、ギルが一気に距離をつめる。


 ジェネラルはあわてて立ち上がろうとした。再び氷で軸足じくあしをすべらせるも、両腕ともう片方の足でかろうじてふみとどまり、数歩後ずさった。


 ジェネラルは自陣の領域をせばめられないよう、前方に氷の『防壁ぼうへき』をきずき上げていく。それを阻止そしすべく、ギルは『水竜すいりゅう』の連発でたたみかけた。


 すでにギルはセンターラインをふみ越えていて、敵陣内で魔法を発動している。


「おいおい、マジかよ。ジェネラルが追いつめられてるぞ。相手を甘く見すぎたか」


「それだけじゃないわ。お粗末そまつな戦い方に気を取られていたけど、相手もかなりの実力の持ち主よ。序列じょれつがついていないのが不思議なくらい」


 ジェネラルは『防壁』の維持に手いっぱいで、反転攻勢に出る気配がない。ギルが乱用したことにより、ジェネラル陣内のエーテルは極度きょくどに消費された。


 『防壁』にほころびが見え始める。遠くない未来に決壊けっかいを迎えそうな状況だ。はたから見ても、反撃の糸口いとぐちはないように思えた。


 絶え間なく続いた攻撃が小休止しょうきゅうしすると、ギルの背後に巨大な『氷柱つらら』が姿を現した。ギルが回復した自陣のエーテルを存分ぞんぶんにそそぎ込み、『防壁』に穴をうがつためにつくりだした。


 『防壁』の崩壊が勝負を決定づけるのは明白。たちまちギルの魔法に取り囲まれ、ジェネラルは魔法の発動さえ満足に行えなくなるだろう。


 会場の誰しもがジェネラルの敗北という大番狂おおばんくるわせを予感した。


 ところが、突然ギルの耳に氷のひび割れる音が届き始めた。


 一度や二度ではない。次から次と起こる耳ざわりな異音。不審に思ったギルが振り返ると、『氷柱』が無数の小さな氷のやいばによって、怒涛どとうの攻撃を受けていた。


 『氷刃ひょうじん』はジェネラルが『風』によってギルの背後に回り込ませた。ピンポイントに襲いかかるそのれが、『氷柱』に着々と亀裂きれつを広がらせ、ついには先端せんたんを崩落させた。


 それは術者のイメージの崩壊を意味する。ここから再構築するのは至難しなんわざ。ギルはきばをぬかれた氷のかたまりを、やむなく『防壁』目がけて撃ち放った。


 しかし、ゴンとにぶい音を立てただけで突きやぶるにはいたらない。ギルが見せたすきに乗じて、すかさずジェネラルが反撃に出た。


 新たな魔法の発動を阻害そがいするように、繊細せんさいかつ精緻せいちにイメージされた『吹雪ふぶき』が、たちまちジェネラル陣内を席巻せっけんした。後手ごてに回ったギルは、たまらず自陣に引き下がった。


 対等の条件では歴然れきぜんとした実力差があった。ジェネラルによる烈火れっかのごとく攻撃は、相手をまたたく間に陣地の奥深くへ追いやった。


「参った」


 その攻勢こうせいに耐えきれなくなったギルは、いさぎよく降参の言葉を告げた。


     ◆


 静寂につつまれていた会場に、健闘をたたえる拍手がわき起こった。これまでの試合では見られなかった光景だ。


 ひとまず、ジェネラルの敗北という大波乱だいはらんがさけられたことで、観衆は安堵あんどの表情を見せた。


 ギル――に『扮装ふんそう』したスプーは、温かい拍手に送られながら、会場を後にした。


「よくやったな」


「ナイスファイト」


 観衆から相次あいついで声をかけられたが、何の感情もいだかなかった。


 スプーの表情はしぶかった。しかし、それはくやしさからくるものではない。ジェネラルの手ごわさが予想以上のものだったためだ。


 たとえ最強の魔導士が相手だろうと、意表いひょうをついてだまし討ちさえすれば、自身でもどうにかなると考えていた。スプーは戦略の変更を余儀よぎなくされた。


 人影のない通路まで引き上げ、壁に背をあずけてひと息ついた。


しかったね」


 ネクロが物かげからヌッと現れ、ねぎらいの言葉をかけた。


「とりあえず、ムキになっていた理由を聞いておこうか?」


 スプーはジェネラルと戦う理由をネクロに伝えていなかった。直情ちょくじょう的で口の軽いネクロを信頼していないところがある。


「私の力がどこまでジェネラルに通用するか試しておきたかった。場合によっては、我々が『根源の指輪ルーツ』を手に入れなければならない事態も考えられる」


 スプーらが近日実行に移す作戦の目的――それは〈とま〉の最上層さいじょうそうに眠る『源泉の宝珠ソース』の奪取だっしゅだ。そのためには、ジェネラルが所持する『根源の指輪ルーツ』の入手が絶対条件となる。


「何をはりきっているのかと思ったら、そういうわけか。でも、それはインビジブルがやると言っているんだから、任せておけばいいさ」


「やつは元々この国の魔導士だ。信頼にあたいしない。それより、次はお前の番だぞ。くれぐれも出すぎたマネはするなよ」


 スプーが鬼の形相ぎょうそうでネクロをにらみつける。まだ、先の試合による興奮がおさまっていない。


「わかってるよ。でも、『最初の五人』については話してもいいんだろ? まあ、念のため、先にあやまっておこうかな。やっぱり、直接人間をあやつってる時はカッカするんだ」

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