それから

「勇生くん、おはよう!」

「おはよう、マシュマロさん」

 校門の下で、きょうも挨拶あいさつをかわす。転校生だったマシュマロさんは、すっかり学校になじんでいた。

「おはよう。ふたり、いつもいっしょなの?」

 くつばこの前で、横平よこひらに会った。


「勇生くん、毎日おなじ時間に来るんだもん。だから、わたしもいっしょの時間にしたの」

「どうして?」

「そうしたら、わたしも遅刻しないでしょ?」

 楽しそうな笑い声をききながら、教室へ向かう。しずかに本を読んでいる鳥羽さんのとなりの席に、マシュマロさんがむかっていった。


「ゆりあちゃん、おはよう。あれから、センパイと進展あった?」

「そ、そんなすぐにはなにもないよ」

 赤い顔をふせる鳥羽さを横目に見ながら、ぼくも自分の席へ向かう。少しうしろで、女子のグループがいつもどおりに話しているのが見えた。

 里中が、きまずそうにぼくに視線を向ける。「気にしないで」と、首をふってつたえた。いつまでも引きずってても、楽しくないもんね。


 生徒たちが次々に教室にやってくる。朝の時間をおもいおもいにすごしていたけど、急にみんながしずかになった。

 ふりかえって、原因がわかった。入り口から、大きな生徒が入ってきていた。もちろん、種井だ。

 みんながそれとなく気にしているなかを、種井はずんずんと歩いて、話しこんでいる女子のグループの方へ近づいていった。


「星田、里中」

 むすっとした顔つきのまま、種井がふたりの名前を呼ぶ。星田さんは体ごとゆっくり、里中は顔だけそっと彼のほうをみた。

 きのうのケンカをみんながおもいだして不安な空気がひろがる。

「きのうは、わるかったな。……妹が」

 教室にざわつきがひろがる。里中はあきらかにびっくりしていた。


「種井くんが謝る必要はないわ」

「う、うん。あたしのせいでもあるし

 ふたりが答えると、種井はうんとだけうなずいて、いつもの男子のグループにもどっていった。

「なんかあったのか?」

「星田にコクられたとか」

「ああ、フったから?」

 彼らがいつもの調子でひやかそうとするけど……


「やめとけ」

 種井が手をあげてそれを止める。

 また、意外な言葉にみんながきょとんとしていた。

「鳥羽も、妹があやまってた」

「う、ううん。まだちいさいし、ふざけただけだと思うから」

 ある意味、いちばん効果的な返事をする鳥羽さん。種井はぶすっとしながら、だまって席についた。


(次の日には元にもどってるかもっておもったけど……)

 一晩たって、ちゃんと反省してくれたみたいだ。

 そう思っていると、マシュマロさんと目があった。ぼくたちはふたりだけで、小さくうなずきあった。

 なじんでるだけじゃない。彼女は、教室のフンイキも変えてしまったんだ。


 それから、誰かがマシュマロさんに声をかけたのがわかった。彼女は目をかがやかせてそれにこたえると、ぼくに手まねきする。

「勇生くん、相談があるって!」

 チャイムが鳴るまで、あと5分くらい。相談をぜんぶ聞くことはできないけど、ひとつだけ質問する時間はある。

 ぼくがとなりに行くのを待って、マシュマロさんは笑顔で聞いた。


「あなたの『好き』を教えてくれる?」





『マシュマロさんは魔法使い!』おわり☂

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