没入を妨げることなく、場面ごとに選び抜かれた語彙と描写が光ります。
努力によって培われた九条さんの美しさ。
そして、優しさゆえに周囲が放っておけない蒼くん。
さらに、物語に味を生む健太の存在。
魅力的なキャラクターたちが、読者のニヤニヤを止めません。
練りに練られた構成力。
ロケハンまでされている物語の厚みに、作者の力量を感じずにはいられません。
作者さんによりハッピーエンドが約束されていても、ふと暗くなる九条さんの心に揺さぶられてしまう。
その献身の理由が知りたくて、時にニヤつきながら、二人が困難を乗り越えていく姿を見守りたくなります。
どうか、彼らに祝福がありますように。
序盤に交通事故にあってしまう主人公。
この出だしだけ聞くと、「ああ、ハイハイ異世界転生ものね」と思う方も多いでしょう。
しかし本作の主人公である蒼くん、なんと転生しません。
事故をきっかけに特別な能力も⋯目覚めませんっ!!
まさかの“何も起きない”展開。
あるのは、動かすこともままならない身体と、どうにもならない現実だけ。
いやいやそんな美女がそうそう身近におらんやろ!というようなラノベ要素が絶妙に交わり合い、気づけばすっかり作品の世界に引き込まれていました。
まだ序盤なので派手な展開はほぼありませんが、心理描写や情景描写が非常に丁寧で、妙に引き込まれる。
静かなのに退屈しない、不思議な中毒性があります。
異世界も特別な能力もバトルもない。
しかしながら日常系にしては独特すぎる雰囲気な本作。
多くの人にその不思議な魅力を持つ世界に触れていただきたいと感じます。