第12話

「主よ、あなたが生まれる前のことであったか。大災厄は」

百妃は、頷く。

「狂ったAI、RB(Re・designed humans・Brigade)が、無人戦闘機械からなる機械化旅団を率いて人類に襲いかかってきたのが30年前。わたしが生まれたのは、人類の90%が殺された後だった」

百妃は、もう一度ため息をつく。

「この世界に、ひとが満ち溢れていたなんて、とても想像つかないわ」

「世界とはうつり変わるものだ。そうではないか、主よ」

ティーガーの言葉には応えず、百妃はぼんやりとした眼で廃墟を眺めている。

木々や草花に覆われたその廃墟は、垂直に聳える森のようであった。

ひとは消え去っても尚、地上から生命が消え去るわけではない。

ただ、世界の捕食連鎖の頂点にたつものがひとではなく、AIに支配された戦闘機械群になったというだけ。

ひとは狩られる宿命のいち種族として、世界の片隅で生きていくことになった。

百妃は、そう思っている。

突然、電子音が鳴り響く。

ティーガーが、少し片方の眉をあげた。

オートバイを、道端に停車させる。

「電話だ、我が主よ」

百妃は、眉をひそめる。

ティーガーは左手を百妃に向かって差し出した。

その左手は、黒い光に包まれそこから電子音が響いてきている。

百妃は、その黒い光に手を差し込んだ。

黒い電話の受話器を、黒い光の中から取り出す。

百妃は、受話器を耳に当てた。

そこから聞こえてきたのは、おとなのおんなの声である。

(無事、任務成功おめでとう)

「なんなの、おかあさん」

受話器の向こうで、おんなが咳払いするのが聞こえる。

(ミッション遂行中は、おかあさんではなく、司令と呼びなさい)

「ええ、それでなんなの、亜川司令」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る