第62話
「はあっー、疲れたー」
ベッドに全てを投げ出すように仰向けに倒れた。
能力者との邂逅はいつだって疲れる。
冗談抜きで命懸けだ。綱渡りもいいところで一歩でも踏み外せば即落下。細心の注意を払っても払いすぎることはない。特に俺に対して悪感情を抱いている相手なら尚更だろう。以前は彼女を突き放した言動をとっただけに殺すとまではいかなくても危害を加えてくることは覚悟していたが意外と言うか案外冷静なメンタルの持ち主だったようだ。以前会話を交わした時はそれこそ冷静さを欠いていたように見受けられたし直接攻撃まで及んだことから気が短いのだと思っていたがあの時は錯乱していたようだった。それを判断材料にするには弱いか。
様々な要素を絡めて考えても納得のいく結論にはたどり着かない。
しくったな、名前を聞きそびれた。
これは会長にも当てはまるが、名前を聞く、というのは相手を知る上で重要なファクターを持つ。『名は体を表す』って言うぐらいだから名前から個人のパーソナリティーを推測することも可能ではある。逆に、どれだけ行動を観察し思考し推察しても名前を知らない相手を理解することができない。今までその人間性にさほど興味を持たなかったがために名前を尋ねることをしなかったがここで裏目に出た。
だけど、
「ここで考えても意味はない、か」
今考えるべきはゲームのことだけだ。
そもそも勝負を提案した時点でゲームを始めるつもりだった。考える暇も作戦を練る暇も与えずにゲームを始めるつもりだったが、こうして開始までに時間的猶予を与えてしまったのは今思えば愚策だったか。それでも策がないでもないがそれもこれも当日の向こうの出方次第だ。それによっちゃ考えた策が全て水泡に帰すということも考えられる。
仮に冷静で頭が回り且つ能力を十全に扱える人物なら俺の勝ち目は良くて五分、ともすれば三割あるかないか。ギャンブルに出るにはあまりにも分が悪い。
ただ、何かが分かればそれでいい。勝つことが目的じゃあない。
敗北した時の要求として死ぬことを要求されたとしても最後の最期にでも何かが掴めれば
死んでも構わない。死ぬことさえ厭わない。
俺とは別のベッドで心地よさそうに寝息を立てて寝ている幼女。サラサラとした前髪をなぞり頭を撫でると可愛らしく身じろぎをした。
「なぁ、ルカ。俺ってなにがしたいんだろうな?」
返ってこないと知っていながらも無意味な質問をした。
やはり俺は性格が相当悪いようだ。この問いの答えを誰かが答えてくれるとでも思っているのか。
「そんなわけ、ないだろ」
目を閉じて、一人、呟いた。
「なんでこんなことしてんだっけ?」
学校をサボり、小一時間ほど敷地内の周りを当て所なくぶらぶらと歩いていた。
月並みだが、学校に行く気分じゃないと言う
やつだ。サボっていることは多分バレるだろうがそんなことはもはやどうでもいい。
思えば最初からおかしかったんだ。
始めは新たな家族が出来たこと、そして変わった高校に進んだと思ったら能力者がどーたらに巻き込まれて生徒会長に半強制的に手伝われて念動力を持つ先輩に絡まれて幼女と同居して憑依能力者には後頭部を殴られて人質を取られ挙げ句の果てには殺されかけたりもしたしテストで百点取ったら変な行事のターゲットにされて追いかけ回されて逃げ切ったと思ったらその晩に同級生と会長と幼女と食事して色々言われてその翌日には会長と将棋を指して酷い頭痛が襲って来たと思ったら苦手な会長に介抱されて、そして現在その憑依能力者と最後の決着をつけることになった。
何してんだ、俺。
いつからそんな頑張るやつになったんだ?
周囲でどんな問題が起ころうとも無関心を貫くのが俺だったはずだろ。
生徒会長?能力者?
その程度のことで突き動かされる俺じゃなかったはずだ。
何故、こうなった?
いつから誰かを気にかけるようなやつになった?
たとえイレギュラーがあったとしても幼女との同居を以前の自分は許すはずがなかったはずだ。
あまつさえ他人の力を借りてまで共に生活を送ろうなど思うわけもない。
それに毎日おやつも買っていたな。
なんだ、このザマは。
いつからそんな甘い人間になった?
他人からの依頼を受けるなんて今までなら考えられない。ましてや自ら貢献しようなど言語道断だったはずだ。
いつだって動き出す理由は自分のためで、他人を理由にしてこなかったはずだ。自分以外を理由にするなど、自分が最も嫌ってきたものじゃなかったのか?
「ああ、そっか」
きっと、心地よかったんだ。
藍と紅と会話して
先輩と飯を食って
瑠璃や会長と
家に帰ればルカが居て。
そんなぬるま湯が心地よかった。
認めよう。
ぬるま湯を求め、守ろうとしていたことを。
認めよう。
それが自分が求めたものだと嘯いて甘受していたことを。
認めよう。
そのぬるま湯に浸かっていれば、自分が真っ当な人間になれると思っていたことを。
そんなわけないのに。
人との繋がりは底無し沼だ。
時間が経つごとに深く、深く嵌っていく。
馴れ合い触れ合うごとにさらに沼は底を増していき、そのことに気づいて抜け出そうとした時には既に頭まで沈んでしまってその繋がりを容易に断ち切れなくなる。
俺は、もう、沈んでいるだろうか。
「弱くなったな………」
歩くことにも疲れ、近くにあったベンチに腰をかけ空を見上げる。
海の色はこの空の色に反射して青くなってるんだっけ。
朱に交われば赤くなると言うのに交わらなくても相手色に染まってしまうなんて、海は哀れだ。空には何ら影響を及ぼしていないのに一方的に影響を受けるなんて、いっそ滑稽ですらある。
まるで、どこかの誰かを見ているようで。
もう十分だろ。もう楽しんだだろ。もう堪能しただろ。もう味わっただろ。もう笑っただろ。
なら…………………………………….、
「そうだよなぁ、もう限界だよな。元々俺には眩し過ぎたくらいだ。そもそも俺が求めたわけじゃないよな。全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部巻き込まれただけだ。
なら、無くても変わらないか。最初っから俺には不似合いだったんだ。こんなに幸せな日が訪れること自体、他人を信じられない奴には分不相応だったんだ。アイツらの側にいちゃいけないんだ。居るだけで迷惑で話すだけで害悪で関わるだけで罪悪なんだ。俺がいなくなるだけで少しは楽になる。俺はアイツらに何もしてやれない。恩を仇でしか返せない。それどころか悪影響にしかなっていない。ルカだって俺なんかじゃなくて紅とか藍の所に居た方が良いに決まってる。俺といたら幸せになれない。だから…………」
だから、なんだ?
だから、どうしたいんだ?
目をそらすな。
もう分かっているだろ。
俺が何をすべきか。
それが俺の、アイツらに対する責任のとり方だ。
「ああ。このゲームが終わったら、全て終わらそう」
誰に言うでもなかったが、けれど最も聴かせたい人間には届いただろう。
「学校サボって、何してんの?」
突然声が掛けられ、その方向を見ると思いがけない人物が立っていた。
「……瑠………璃?」
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