第61話
「なあ、ゲームしようぜ」
長年の友人に語りかけるような気軽さで問いかけた。
黄昏時の屋上。橙色に染め上がった敷地内を一望できるその場所には二つの人影があった。一人は他人を操ることができる能力を持つ女生徒。もう一人は、まあ言うまでもないだろう。
先述の通り彼女に会うことが目的であり対話することが目標だったがこうして対面を果たすまでにかなりの苦労があり無駄骨も何本も折った。そもそも本人に会ったことが無いのに何を手掛かりにするんだという話だ。その点は例によって例の如く会長の手を借りて探したのだが。ここまでくればほとんど、悪魔の証明だ。何をもって本人だと断定するか、その証拠能力を持つものは残念ながら有していないがそこはあの会長を信じることにした。その前にこの能力者に情報を流したのもあの人の仕業なのだから知っていて当然というか俺に嘘をつくメリットもないだろうという判断でこの情報を信じることにした。
ここに来るまでに他人に助力してもらったがここからは俺の仕事だ。
「………あんたと話すことはない」
素気無く断られたが、これは想定内。
「なら、賭けをしよう。俺が負ければどんな命令を一つ聞いてやる。あくまで俺個人が出来ることに限るが」
世界を半分寄越せ、とかそんなのは無理だけどな、と笑いながら。
「………私が負ければ」
「ああ、こちらの軽いお願いを聞いてもらう。……………いい条件だろ?」
どんな命令と軽いお願い。天秤にかけるまでもなくどちらが得かは簡単に判断できる。
だが俺からすれば勝負に乗った時点でどんな結果になろうが関係のないことだ。
ステージに上がってさえもらえれば。
それでいい。
「…………ゲームの内容は?」
「ああ…………」
俺は一呼吸おき皮肉げに告げた。
「鬼ごっこだ」
「鬼ごっこってのは鬼が逃走者をタッチするだけだ。簡単だろ?」
「…………………」
「ルールは五つ。
一つ、能力は好きなだけ使っていい。
何人操れるか知らないが能力の対象者とのメール、電話もルールの範疇内にする。
が、俺への直接使用は不正とみなす。
二つ、制限時間は四時間。最初の鬼は逃走者が隠れた三分後にスタートする。
三つ、俺や無関係の人間への暴力行為や脅迫、恐喝行為の禁止。『姿を見せなきゃこいつらを殴る』とか、な。
四つ、四時間後に最終的に鬼だった方が負けだ。
五つ、これらのルールの反故や違反が発覚した瞬間敗北とする」
ルールだけ聞けば俺の圧倒的不利だ。鬼ごっこは数が物を言う競技だとこないだ身を以て味わった。どれだけ足が速かろうが、たとえ世界レベルの脚力があったところで体力には限界がある。それこそ能力を使って人海戦術なんて持ち出されたら太刀打ちのしようがない。つまり個人は集団にはどう足掻いてもどうにもならないと言うことだ。その点で俺はこの能力者とは相性がすこぶる悪い。それは向こうも理解しているだろう。だからこそ俺に対して勝ち目の薄い勝負を提案した俺を訝しんでいる。勿論このルールは以前最終的に逃げ切ったことがあるから、という理由で提案したわけではない。あれは反則もいいところだ。ルールの穴をついただけの禁じ手。重箱の隅をつつくようなもので判定的にはグレーゾーンだ。あの手段が明るみに出れば叩かれることは目に見えてるが、そこは普段からの交友関係の狭さを利用させてもらった。
だが、今回は同じ手を使うつもりはない。
というより使えないだろう。それは俺が取った手段を知ってる知らないに関係なく、使ったところで能力によって簡単に場所が割れる。
「さて、質問は?」
「ルール違反の判定は誰がやんの?まさか、あんたじゃないよね?」
「ああ、その点は問題無い。審判は会長に頼んである」
「っ!」
俺の言葉で顔が強張るのが見て取れた。
それもそのはず。
相手からすれば今の境遇に追いやった張本人だ。そんな相手に警戒しないはずがない。
「異議は?」
この質問は我ながら性格が悪いと思う。『会長』はこの勝負においてこれ以上ない人選なのは互いに理解している。無条件に俺の味方というわけでもなく、手心を加えてくれるほど甘くはない。それは俺の情報を目の前の人物に流したことで証明済みだ。
お互いに苦手意識を持つ相手。その事実だけでその人物は信用に足る。互いが互いに好印象な相手なんて気持ち悪くて仕方がないからな。
「……………ない」
「んじゃ、始めようぜ」
「ちょっと、待って」
「他に質問か?」
「日程は、こっちで決めさせてくれない?」
ここにきて初めての要求、か。
「別に構わない。それで、いつだ?」
「明後日で」
「?まぁ、了解」
なぜ明後日なのか。その理由は分からないまま目の前の能力者は俺の前から立ち去った。
いずれにせよこのステージに引っ張り出せただけでも目的はほぼほぼ達成した。
後は……………………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます