第60話

最後に泣いたのはいつだっただろうか。

最後に笑ったのはいつだっただろうか。

最後に怒ったのはいつだっただろうか。

最後に悲しんだのはいつだっただろうか。

最後に愛しいと感じたのはいつだっただろうか。

最後に人を好きになったのはいつだったのだろうか。

俺という人間は、俺という一個人はどうやら感情を表に出すの難しいらしい。

以前、人を操る能力を持った人間と遭遇した。俺が対面した時、彼女は会長に追い詰められ追いやられていた。そんな中でも幸せになりたいと慟哭していた。手段は決して褒められるものではなかったが目的だけ見れば人間が持つ当然の権利を使役しただけに過ぎない。そんな、ただの一人の人間だった。

そんな人間相手に俺はどう思っただろうか。

後頭部を殴られ知り合いを人質に取られ挙げ句の果てにはハサミで腹部を刺された。そんな相手にすら何も感じなかった。

同情や哀れみ、怒りや恨み。本来ならこれらの感情のいずれかを抱くのが自然の流れのはず。けれど、何とも思わなかった。

それは彼女が同情の余地もないほどの悪人だったからか?救いようもない罪人だったからか?否だ。彼女はただ手段を間違えただけで目的が誤っていたわけではない。

感情を抱けない。

他者にも己にも。

世界に対しても。

そして何よりそんな自分を決して俺は嫌いじゃないこと。

どれだけ言葉を尽くし美辞麗句を並べたところでその揺るぎのない現実の前には無意味であり無価値だ。

それ程までに俺という個人は空っぽだった。

だからこそもう一度彼女に会っておきたいと感じた。

彼女に会えば答えを見つけられる気がしたから。そこにあるのは確たる根拠も絶対的な確証もない、ただの勘だけだ。

一度は退け、釘を刺したため再び彼女の方からコンタクトを取るという可能性はかなり低い。故にこっちから動かなければいけないのが面倒だが、これくらいは許容範囲だろう。

上手くいけば副会長への命令を含めて、会長へのアプローチにも繋がる。

俺の感情の起伏はこの際置いといて。


とりあえず、差し当たって、一先ず、終わらせに行くか。

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