第59話

「お姉ちゃ〜ん、お腹すいた〜」

「そうね、もう昼過ぎだものね。では外で食べましょうか」

「うん!」

学生寮の一室。私は彼に頼まれてルカを預かり面倒を見ることになった。

未だになぜこの子がこの学校に居るのか謎だけれど、彼に訊いてみても一貫して親戚の子だと言い張る。それが真実だとは思わないけれど嘘をついてまで聞かれたくないことなのだとしたら踏み込んではいけないのだと思う。私自身彼のことをもっと知りたいとは思わなくもないけれど………って違う!あくまでこれはルカのためであってもしも本当にやましい理由があるのならば私が保護しなければいけないしこれからの対応も考えていかなければいけない。…………けれど確かに未だに彼のことはよく知らない。

初対面は嫌な奴だと思った。周りを見下しているような、期待していないような諦観した瞳。案の定クラスでは誰とも関わらずに常に独りだった。妹の藍とは偶に話すようだけれどそれでも楽しげな会話という印象は持たない。かと思えば入学早々生徒会にも出入りしているようだったし。おかしい、とは言わないけれど変だとは考えていた。

けれど、それだけじゃないと思っていた。

印象が変わったのは、微かな意識の中で彼の温もりを感じた時だった。あの日、彼が怪我で保健室に運ばれたと聞いて放課後に保健室へ向かおうとルカと行動を共にしていたら急に意識を失い、気がついたら彼の背中だった。その過程に何が起きたか記憶にないけれど意識を失ったことよりも保健室に運ばれるほどの大怪我をしていたはずの彼が私を背負っていた、という事実だけで既にその重大性を物語っていた。

きっと彼はこのことを話しても『別人だろう』と素っ気なく答えるだろう。感謝しても素直に受け取ってはくれないだろう。

ほんと、よく分からない。今まで出会ってきた男子の殆どは自分の手柄を吹聴し良いように見られようとする幼稚で愚かな人たちばかりだったけれど彼は自分の手柄を、手柄ともおもわず感謝されることを避けようとするきらいがある。かと思えば授業中睡眠ばかりしてるくせに全教科満点なんて結果を出すしレクリエーションでは唯一の逃走成功者だったり。 彼の行動には一貫性がないというより敢えて生き方をブレさせているようにも見えた。

そんな彼を恥ずかしながら偶に超能力者なのではないかと浅薄な考えに至ってしまう時もある。そんな非現実的なことあり得るはずはないのに。それくらい不思議な人だ。けれど、不気味ではない。それが一ヶ月彼と共に過ごしてきた獲得した結論だ。

信用に、そして信頼に足る人物だとそう思えた。

今もこうしてルカを預かっているけれどいつも昨日の晩御飯のメニューや一緒に遊んだゲームの内容、彼の家での生活の様子。尽きることなく楽しげに話している。その姿を見て、どれだけ彼のことが好きなのかが伝わってきて思わず頬が緩んでしまう。

ルカはこうして私と遊んでくれているが、本当は彼と一緒に遊びたいんたいんだろうと容易に想像できる。

「お姉ちゃん、どーしたの?」

「いえ、何でもないわ。行きましょうか」

出かける前に一つだけ訊きたいことがあった。

「ねえ、ルカ」

「なに?」

私の袖口を掴んだまま上目遣いで尋ね返すルカを見て胸がズキリと痛んだ。けれど、止められそうにない。

「千草く……あーくんのこと好き?」

「うん、大好き!」

期待通りの、返答だった。

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