第58話

気がつくと目の前には見知った美人の先輩の顔があった。頭を膝に乗せたまま目を閉じてすぅーすぅーと一定の呼吸音を奏でている。

乱雑にポケットに突っ込まれていた端末で時間を確認すると既に昼過ぎになっていた。

かれこれ二、三時間眠ってしまってたのだろうか。だとしたら申し訳ないことをした。

反省しつつ自分の体調、主に頭部の痛みの有無を確認した。………痛みは引いたな。

原因は判明せず、突発的なものか慢性的なものかによっても対処が変わってくる。このままこのレベルの頭痛が続いていくとなるとそれ相応の対処が必要だ。

その前に俺を膝枕したまま眠ってしまった会長のことだ。このままの体勢で寝るには姿勢が幾分かキツイだろうと思い、着ていたパーカーを枕がわりにして横になってもらった。

ちなみに休日であれば学校に私服で入れる。

休日になってまで学校に来ようとする奇人変人はごく僅かなのでこの校則をそもそも把握している人間が少ない。かく言う俺も今朝会長から教えてもらったが。

………どうするかな?起きるまでそばにいた方がいいのか、それとも助けを呼んで退散した方が良いのか。流石に、教室に二人きりで片方寝てるとか第三者に見られたら完全アウトだろ。助けを呼んだつもりが敵を呼ぶことになるかも知れん。

ここは目覚めるまで座して待とう。お互い様だし。

さてなにか暇つぶしができるものは、と。

生徒会室だけあって棚には書類やファイルが整頓されていて、娯楽は見受けられない。

この会長と副会長だし何かしら有ると思っていたが予想外れというか期待外れというか。

実務面はしっかりしているということが分かっただけでも良いか。

他には特にこれと言ったものはないな。 学校が学校だけに生徒会室で死体の一つでも見つかるんじゃないかと戦々恐々としていたが

至って普通の生徒会室だった。能力者関係の話とか知ってる人はごく僅かだと聞いていたしもしかすると他の生徒会員ひょっとすると副会長も知らないかもしれない。………いや、知ってんだっけ?なんかもうよく覚えてないなぁ。ここ最近いろんなことが起きすぎで整理がつかない。そろそろ相関図とか作っといた方がいいかもしれない。

とにかく表面上はどこにでもいる生徒会の組織つー認識で良いか。あまり生徒会という組織に属したことのない人間があれこれ言うと生物識り川へはまる感じなりそうなので不用意な発言は慎もう。

思えばあの二人以外の役職の会員を見かけたことがないな。以前訪問した時も今もいないし。………嫌われてんのかな。

生徒会室を物色したり将棋の棋譜を並べ直していたりしていると後方から物音がした。

「………寝てしまっていたか」

「ああ、お目覚めですか」

「うん」

寝起きだからか舌ったらずでぼーっとした佇まいが普段の大人びた雰囲気を一新し幼さを感じさせる。………なんだこの人。歩く萌え属性か。私生活で鍛えられたメンタルがなければ速攻で惚れてた。この時ほどルカがいて良かったと思ったことはない。そりゃあ一つ屋根の下に幼女が居たらメンタルも強くなるわ。

「………頭痛、大丈夫かい?」

「あ、はい、おかげさまで。痛みは引きました」

「そう、それは良かった」

「あー、すいません。何時間も膝枕で寝てしまって」

「いや、構わないよ。私としても良いもの見せてもらったし、それにこっちも気を遣われてしまったようだしね」

そう言い、枕がわりにしていたパーカーを綺麗に畳み直して返してくれた。

「そういえば、今何時だい?」

「昼過ぎですね。午後の一時くらいです」

「そう。………これからお昼でもどうだい?

今日付き合ってもらったお礼も兼ねて奢らせてもらうよ」

「いや、昨日の今日でまた奢っていただくのは流石に男としての尊厳がなくなります」

「気にすることはないよ。これでも財布に余裕があるからね。後輩のために使えるならそれは喜ばしいことだろうし」

「あー、じゃあ膝枕してもらったお礼ってことで俺が奢りますよ。それでチャラってことで。………これでも財布に余裕があるんで」

「ふふっ、じゃあお言葉に甘えようかな。

あの幼女はどうする?部屋で留守番してるのかい?」

「いえ、紅に預けてます。やたらあの二人仲良いんですよね。ルカの紅に対するなつき度がハンパじゃないっていうか、何なら俺よりも高いんじゃないんですか」

おかしいな。毎日おやつ買ってきてあげてるのに………。やっぱり料理の腕の差か。紅の料理美味かったし。それに何だかんだ言って面倒見いいんだよな。普段はつっけんどんな態度なくせに年下には甘いっていうか、お姉ちゃん気質なのかもしれない。

「紅も意外と子供好きなんですかね」

「意外でもないんじゃないのかい。ほら、あの無口ちゃんと仲良くしてるんだろう?あの子は根っからの妹っぽいからその子の世話を焼くことが好きなのかもしれない。まあ無口ちゃんもあの姉がいたらそのポジションに収まらざるを得ないか」

「副会長って普段どんな感じなんですか。

あまり真面目に働くって印象がないんですよね。鬼ごっこの時も公衆の面前で蹴り入れられましたし、テスト前もブラブラしてましたし」

俺のことを生徒会に入れようとしてたし。まったくもって巫山戯てるとしか思えない。

「彼女は優秀だよ。私の右腕にして初めて出来た対等な友達だ。お茶目な一面も似通っていたのも友達になった要因の一つだろう。

私もほら、お茶目だから」

お茶目なんて易しい言葉では片付かないだろ。いいように言い過ぎだ。誇張表現だ。

「あなたの場合、お茶目っつーより滅茶苦茶って感じですよ。巻き込まれる側からしたらたまったもんじゃない」

「でも、本当は嬉しいんでしょ」

んなわけあるか。

「んで、昼はどーすんですか?食うんですか?」

「ああ、そうだね。じゃあ将棋盤を片しといてくれ。戸締りしとくから」

「うっす」

指示通り将棋盤を棚の中にしまい駒を一つ一つ駒袋に入れる。対局している最中も気になったが駒の手触りがツヤツヤしていて手触りがいい。それに椿油の香りがする。よく手入れしている証拠だ。本当に将棋好きなんだなと改めて実感した。将棋を指しても駒の手入れまで行うのは生半ではない。

「片付いたかい?」

荷物を纏めてドアの前に立つ会長に声をかけられ慌てながら慎重に盤と駒をしまい、パーカーを着なおした。

「ええ」

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