第57話

久しぶりの更新です

新作の方もいずれ投稿させて頂きます




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「はい、王手」

「………………負けました」

「………ふう、辛勝と言ったところかな。ヒヤヒヤしたよ。今回こそ負けるかもと肝を冷やしたものだ」

「…………よく言いますよ。六戦して未だに一度も勝ててないんですから」

いつもと装いを変えた会長が疲れたように伸びをしている。

今日は見慣れたメガネ姿ではなくコンタクトをしているのだろうか。とにかく会長の裸眼状態を多分初めて見た。

その姿に眼鏡フェティシズムじゃあないが、

普段髪を下ろしている子がポニテだったりサイドテールだったりお団子だったりにすると

気になっちゃう感覚。個人的に夜会巻きが最高に艶っぽいと思うけど。いわゆるギャップ萌えだ。メガネを常用している人がふとした時に外すとそれはもうとんでもない破壊力があるわけで。会長の普段のメガネ姿も堂に入ってるが、メガネ無しの状態も中々どうして趣深いものがある。元々顔立ちが整っていて、可愛い系というよりはキレイ系の会長にはメガネがよく似合うというのは大きい。そのメガネが似合う分外した時の落差というかギャップというのは他の追随を許さないくらい、比ではない。ボストンやラウンド、ウェリントンなど型によっての魅力は三者三様でそれぞれの良さはあるのだが、個人的にはスクエアが至高だと思う。最近ボストンやラウンドが台頭しスクエアの人口が減ってしまったのが残念でならない。勿論ボストンやラウンドにも魅力があることは鷹揚に認める。けれどもスクエアにある滲み出る理知的でクールな雰囲気が俺の好みにどストライクなのだ。ちなみに俺の周囲でメガネをかけているのは会長と桃染先輩。会長はスクエア、桃染先輩はボストンだ。そこは二人の個性の違いというかイメージ通りのメガネというか。会長は立場上知的でクールなイメージがあり、桃染先輩は快活で明るい雰囲気を纏っていてリア充っぽい人(リア充かどうかは知らんけれど)なので印象通りと言えば印象通りだ。まぁあの人の場合能力の歯止めをかける意味でのメガネなので伊達メガネという疑惑があるが。

………と、そろそろフェチについて語るのはやめよう。

そもそもなぜ、俺はこの人と将棋を指しているんだ…………。


昨晩、日付が変わった頃だっただろうか。昨夜は色々あったので可及的速やかに眠りにつこうと思いルカをベッドへ運び、軽くシャワー浴びた後すぐに就寝した。いつもより一時間は早く眠っただろうか。それだけ疲れていたということだろう。今日は色々あったし。色々と。そして心地よく睡眠している最中、端末からピロンッとメールの受信音がした。

こんな真夜中に非常識な奴だ、と目をこすり毒づきながらメールを開封すると会長からだった。会長と連絡先を交換した覚えも、ましてや交換しないにしても会長に教えた覚えも訊かれた記憶もないのだが……。あの人はもう何でもありだからなぁ。つっこむのも面倒だ。

また仕事か? 恐る恐るメールの内容に目を通すとお誘いのメールだった。この人から呼び出されて良いことがあるとは微塵も思えなくどうせ例によって例の如く仕事の話だと考えていたので拍子抜けっちゃあ拍子抜けだった。この時はまさか将棋を指すことになるとは思わなかったが。

メールには『明日、九時に生徒会室』と味も素っ気もない簡潔な内容だった。女子の先輩とのメールってもっとこう、心躍る感じじゃないの?これじゃあただの業務連絡だ。上司からの仕事依頼と全くと言っていいほど変わりない。ある意味上司であることには変わりないけれど。けれどこうして二人で将棋を指している理由には全くならないんですけど?


「いやー、君は飲み込みの早さが異常だね。あと五戦もすれば私はもう勝てないかもしれない。それくらい伸び代が半端じゃない。時代が時代なら君は諸葛亮孔明になれたんじゃないかな?」

「過大評価もいいとこですよ。第一、平手ならともかく角落ちじゃないですか」

「まぁ、ハンデは必要だろう。見たところ、というか指してみて君は対人でやったことがないんじゃないかな?コンピューターとは対局したことはあっても。そんな気がしたんだけど」

「………そんなことまで分かるんですね。

ええ、おっしゃる通り一度も人間相手に指したことはないですよ。そんな友達はいませんでした」

父親も物心つく頃には既に居なかったし、さりとて母親とも今でこそ良好な関係を築けているけれど俺が幼かった時代に何かしてくれた覚えがない。自分で言うのもなんだが当時から聡い子供だったから迷惑かけちゃダメだと子供ながらに、子供だからこそ感じ取れた。親の心は子は知らないから母親は当時どう思っていたか知る由も無いが、その微妙な距離感のおかげで一緒に遊ぶ、なんてした覚えがない。その分一人で遊ぶものばかり増えていた。その点、会長はどうなのだろうか。こんな感じだから厳しい教育を受けていても逆に放任主義な家庭だったとしても納得できてしまう。友達がいたとしてもお互いが対等な立場というよりかは上下関係が決まりきった主人と僕みたいな関係を築いていそうだ。生徒会長を務めているというのはそれが関係あるのかもしれない。多分、人を使うのがずば抜けて上手いのだろう。仕事を作り出して雇用を生む、みたいな。故に対等な関係を築く。個人差はあれどこの人に限ってはその行為の難易度は段違いだろう。言うは易く行うは難しという言葉があるがまさに、という感じだ。

だがこれに限っては会長には何も非はない。だからこそタチが悪い。

っと、今はこの人の分析する場合ではないか。

「うん、知ってる」

「逆に何で俺なんですか?友達いないんですか?ボッチなんですか?」

「先輩相手にずかずかと踏み込んでくるなぁ。ま、そういうとこも好感が持てるんだけどね」

「実際、どんな感覚で指してるんですか?

異能感覚って言うんでしたっけ?そういうのはあるんですよね、将棋って」

なんか漫画でそんな話見たことあった気がする。

「さあ?そこまで詳しく精通してるわけじゃないからね。普通に、ただの読みだけだよ。

逆に君はどーゆー感覚なの?」

「俺ですか?そうですね………、パズル、ですかね」

「パズル、ね……、へぇ………」

「ほら、パズルって一ピース嵌めるごとに選択肢って増えるじゃないですか。それこそねずみ算式に。それを一つ一つ当てはめて正誤判定するみたいな感じですかね」

結局はそれも読みだと言われてしまえばその通りだが、個人的には読みとはまた違った感覚なのだから仕方がない。

「あの、会長………」

「ん?何だい?」

「夢を叶えるっていいことなんですかね?」

「どうした?藪から棒に」

「いや、何となく。将棋指してたら思い浮かんで……。今の時代、まあ昔はどうだったか分かりませんけど、夢を叶える必要ってないんじゃないかって思ったんですよ。

将棋にしたってプロの先生たちは生まれ持った才能があってその上血の滲むような努力をした結果の今じゃないですか。プロになるために頑張る。けれどプロになるのがいいとは限らないんじゃないですか。プロになったお陰でその後の人生が苦痛になった人だっていたでしょう。まず、なぜ夢を叶えるかに焦点を置くべきだと思うんですよ。生きるために夢を叶える人も多いんだと思いますけど、多分生きるためなら夢を叶えない方が楽ですよね。スポーツの世界や芸能界、文化人の人たちもそうですけど、自ら人生をハードモードにしているようにしか見えないんですよ。人生を楽しむために夢を叶えるにしたって、夢を叶える過程で辛いことや苦しいことを常人よりも増えるわけであって楽しいよりも苦しみが割合的に多くなるんですよ。だから俺なんかは、夢は見るものであって叶えるものではないって思うんですよ。夢を叶えた人をブラウン管越しで眺めて羨んでいるのが一番楽だし楽しいと思いますよ。 それに他人に迷惑かけてまで夢を叶えようとも思えません。

会長はどう思いますか?」

「…………なるほど。その考えも一理ある。

今の時代、スマートフォンやパソコンやらで夢を叶えなくても人生楽しめるからね。

けど夢を叶えてきた人たちは人生を楽しもうと思って叶えてきたわけじゃないと思うね」

「何故そう思うんですか?」

「さあ?何故だろう。………けど夢を叶えた人生の成功者たちは、人生を他人のために使ってきたんじゃないのかな?」

「他人のため……」

「誰かのため、あるいは世界のため。自分以外のために力を発揮できる人はたしかに素晴らしいし賞賛されるべきものだと思う」

どこか棘を含んだ言い方だった。

「けど、私は自分のために人生を賭けられる人間の方が素晴らしいと思うね」

「そうですか?私利私欲に走って欲望のまま生きていきそうに感じますけど」

「ああ、犯罪者とかそんな話じゃないよ?

それに夢を叶えた人を否定していると勘違いするかもしれないけれどそんな気は毛頭ないから、先に言っとく。

自分のために人生を送るってことは自分自身のために他人に迷惑かける覚悟が出来てるってことさ。自分の行いで周囲に対してどんな影響を与えるかその余波を理解できている。

逆に誰かのために動いた人間は失敗した時も誰かのせいにする。利他主義と言えば聞こえがいいけど要は失敗や誤ちの原因を他人に擦りつけるだけだからねぇ。今ラノベとかアニメで流行ってる自己犠牲系のヒーローとかいるじゃない。『あいつの代わりに俺を殺せ!』とか言っちゃう奴。あれはもう最悪だね。そんなものヒーローでも何でもない。ただ自分が傷つきたくないから、大切なものを失った痛みを味わいたくないだけの臆病者だよ。しかもその痛みをあまつさえ大切な人に与えようとしている。

…………今の時代、自分のためだけに人生を捧げられる人はいなくなっちゃったからね」

どこか物寂しそうな物言いに、複雑な気持ちを抱いた。

誰かのために人生を捧げられる人間は賞賛されるべきかもしれない。けれど、たしかにそれは辛い思いをしたくないと言外に仄めかしている。それだけ聞くと自分のために人生を送ることが正しいように聞こえるけれど一概にも言えない。誰かのために生きることも尊いものだと思う。ただ、危ういというだけだ。

この話は終わりだ、と言わんばかりに駒をは並べ始めた。俺もそれに倣い駒を初期配置に並べていく。

「………ッ!」

持っていた飛車の駒が手からこぼれ落ちた。

なんの前触れもなく突如激しい頭痛が襲う。頭が割れそうなほどの激痛に思わず頭を抱えて体勢を崩す。以前、後頭部を殴られた経験があるがそれと同等かそれ以上の激痛だ。

「大丈夫かい⁉︎」

会長が慌てた様子で俺を腕に抱き、床への衝突を防いでくれた。先輩の女子に抱かれているというシチュエーションを楽しむ余裕も恥ずかしがる余裕も残念ながらない。

「……………え、ええ。な、なんとか」

「今までこんなことは?」

「なかった、と思い、ます」

「とりあえず医療班を呼ぶかい?」

医療班、と聞いて真っ先にあの人が思い浮かんだ。が、たしか外傷は治せても痛みを取ることはできないとか言ってた気がする。骨折の時は骨自体を治せば痛みは無くなったが、

この頭痛は原因が分からないため治療できないのだろう。精神的なダメージによる頭痛ならそれは手の出しようがないわけで。

「いや、そこまで、迷惑はかけられない、です」

「………そう。じゃあ私の膝枕で癒されな」

そう言い優しく俺の頭を膝へ置いた。

どんな高級枕にもないこの心地よい柔らかさについ甘えてしまいたくなる。

………これが年上の包容力か。いいな……。

「…………すいません」

「そこはありがとうございます、でいいんだよ」

ほんと、この人には敵わない。


打算的で全てを見透かしたように場をかき回すくせに、こういうことをされたら総て許してしまいそうになる。委ねてしまいそうになる。

ああ、やばい。目を開けるのもしんどくなってきた………。

人間はある一定以上の痛みを感じると脳は痛みを遮断しようとして失神するという。

どうやら今、この現象が起こっているらしい。最近気絶することが多いなぁ……と意識が途切れる最中そんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る