第55話

「よォさっき振りだな。もうお休みか?」

「………何の用だ」

「つれねぇな、オレとお前の仲じゃねえか」

「仲っつーか、お前が俺の中にいんだろ」

「ハッ、おもしれーこと言うな。まぁその通りだな」

既視感のある真っ白な空間を目にし、その瞬間夢であることを直感的に理解した。

「つーかまじで何の用だよ。あんだけカッコつけて説教垂れて、格好良く去ったくせに」

「いや、何の用だって訊きてぇのはオレの方なんだけどなァ。基本的にお前が望まねぇ限りオレは出てこねぇんだよ。あー、なんつーのか、ああアレだな、グルメ細胞みたいなもんだと思ってくれていい」

「なんで喩えがトリコなんだよ。俺、美食屋じゃないんですけど。それに余計分かりにくくなったわ」

「じゃあ『格闘王への道』のヘルパーみたいなもんだ」

「次はカービィかよ。しかもそれ『ヘルパーマスターへの道』じゃなかったか?なに、タックなの?ロッキーなの?」

「ふーむ、喩えってムズイな。そうだな…………、遊戯と闇遊戯の関係って言えばいいか」

「………ああ、なるほどな。それは分かりやすい」

ただその喩えの通りなら俺がオレを自覚する以前から存在していたことになる。関知し認識するまでに至ったのはついさっきだが、存在自体は遥か昔からあったのではないか。一日前か一年前か、それとも十年以上前から。

向こうは千年パズルを完成させることで新たな人格を得たが、こっちは何か明確なトリガーがあったのだろうか。

「つまりだな、お前が意識的だろうが無意識的だろうがオレを求めた結果こうして出て来ざるを得なかったわけだ」

「…………求め、た」

「あ〜、さっきも言ったけどよ、殺し続けた結果今の人格が出来上がった訳だろ?自分自身を抑圧し続けたんだ。要は決壊寸前のダムの状態だ。表面張力とも言ってもいい。それを長年堪えていりゃそりゃあ、いつかどっかで皺寄せがくるのは至極当然なことだ。それを対処しようとした結果のオレなんじゃねえの?いや、オレも詳しいことは分からねえけど今の自分とは真逆のタイプの人格を形成するのはある種の防衛機制だろ。だから意識的だろうが無意識的だろうがお前がオレを作り、オレを求めた」

「じゃあ、今の俺はギリギリだってことか?」

「そうだな……、ギリギリっつーのとはまた違うのか?いや、まぁ当たらずとも遠からずってとこか。皺寄せをお前だけじゃなくオレにも分散させることでお前が受けるダメージを軽減してるっ感じだ」

「なるほどな、一緒に背負ってくれてたってことか」

「ああ、そんなところだ」

「………じゃあ、俺がお前に何を望んだか分かっているのか?」

「まぁな。けど、それはテメェが口に出さなきゃいけねぇことだろ。お前自身の言葉でお前自身の口から語らなければいけないことだ。………あまり、オレに甘えんな」

「………そう、だな。ああ、本当は気づいていたんだ。何故お前を求めたのか」

「ふぅん、あっそ。じゃあ言ってみ?」


「…………話、聞いてくれるか?」






俺は語った。今日の出来事、昨日の出来事、一連の流れを。

「なるほどなるほど、要は他人が理解できない、つーことか?」

「まあ、有り体に言えばそうなるな」

「けどよォ、自分自身でそれは不可能だってとこに帰結してなかったか?それなのにオレに何を求めてるんだよ」

「いや、そうなんだけどいまいち納得できないというか、得心できないというか…………」

「腑に落ちない、だろ」

「そう、それ。人間なんて自分自身のことさえ理解できていないのに他人のことは尚更理解できるはずないんだ。相手が何を思って何を感じて何がしたいか、なんて分かるはずないんだよ。どこまで考えたところでそれは推察の域を出ない。答え合わせなんてしようがないからな。

けどそれが分かった上で、その上で相手の心中を推し量っている自分がいた。

本当は理解できるんじゃないのか、俺が勝手に諦めて見切りを付けてギブアップして投げ出しているだけではないか、誰しもが当たり前に相手の気持ちを汲み取っているのではないか、俺だけが相手の気持ちをわかってあげられていないのではないか。

結局、諦めきれずにズルズルと引きずっているんだろうな。

そん時からもうお前が存在していたかは知らないが、簡単に言えば疲れたんだよ。

今の俺の現状を知ってる奴が聞けば驚くと思うけど、小さい頃俺に友達が居たんだぜ。それも大勢な。それこそ放課後なんかは夕暮れまで外で遊んでたな。うちは俺が物心がつく前に離婚してそれ以来母子家庭だったから母親は遅くまで仕事で帰って来なかったし、家に居てもつまらなかったからなぁ。まぁだから母子家庭ってことを知られたくなくて家には友達を呼んだことはないが、けど小さい頃の俺は周囲とはそれなりに良好な関係を築けてたんだ。けどそれも長くは続かなかった。 歳を重ね学年が上がっていくにつれ人間関係はややこしくなった。その頃には既に色恋沙汰なんかもあったから、それは顕著だったと思う。その頃からだ、まぁ俗に言う思春期ってやつだ。多感な時期になれば些細な言葉一つで精神的に不安定になりかねないからな。だから俺は傷つけないために常に考えて考えて考えた上で発言していた。別に周囲に配慮していたことを言いたいわけじゃあない。こんなこと日常生活で誰もがやっていることだ。しかも当たり前に。だけど俺にはそれが出来なかった。もっと楽観的に享楽的に生きていけるような人間だったら苦労しなかったんだろうけど、お生憎様こんな性格だったからな。

別に誰かを傷つけたトラウマからこんな捻くれた性格になったわけじゃないんだ。元々こんなんだったけど、その時は猫をかぶっていたというより仮面をかぶっていた。演じてたとでも言えばいいか。とにかく素を出して会話していたことは一度もなかった。誰が相手でも愛想笑いと社交辞令で会話をしていた。

けどそれも辞めた。疲れたんだよ。

何か決定的な出来事があったか無かったかは定かではないが、空気を読んで表情を読んで気持ちを読むことに疲れてしまった。そんな自分が薄ら寒くて嫌気がさした。人と話すくらいなら一人でいた方が楽だと気づいてしまった。自分を騙してまで誰かと仲良くなる必要性も価値も感じられなくなった。しかも一人で生きていける程度のスペックが俺にはあった。だからこそ簡単に周囲の人間関係を切り捨てることができた。

その後、中学に上がる頃には俺は完全にボッチになっていた。いや、『なっていた』ではなく『なった』の方が正しいと思う。自分の意志で周囲から距離を置き、孤立した。その結果、余人に干渉されない平穏な生活を送り今に至るってとこだ」

「…………オレはお前と知識を共有してるから

そういう事情も知ってるっちゃ知っているが…………なんで今オレに言ったんだ?」

「けじめ、とでも言うのか、とにかく俺の人生ものがたりを口に出してお前に伝えるべきだと思ったんだよ。知っていようと知ってなかろうが、な」

「………そうか」

「逆に、知ってんなら話を聞くまでもなかっただろ?なんで大人しく聞いてくれてたんだよ」

「言ったろ、お前の話を聞いてやるって」

「………そっか」

「んじゃあ、改めて質問を訊くがあまり期待すんなよ。なんたって元がお前なんだからな」

「………ああ、じゃあ」



「俺は変わるべきなのか?」

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