第53話

ぎこちない手つきながらも運ばれてくる料理を口にしたがどれも絶品で、改めて学生しか利用しないこの街には不釣り合いなものではないかと疑問を呈さずにはいられなかった。

ルカも気に入ってくれたようでパクパクと次から次へと食べていた。この料理がきっかけで俺の手料理が今後食べてもらえなくなったらどうしようと心配してしまうほどの食べっぷりだった。好き嫌いしないで食べてくれるのはというのは作り手としてもとても気持ちがいいことだ。こちらとしても作り甲斐がある。誰か食べる相手が居るというだけでもモチベーションが上がるから、沢山食べてくれるのなら尚更だ。もしもルカが居なくなったら俺は料理をしなくなるのではと若干危機感を覚えるほどに無くてはならない存在になっているのはもう否定できない。

………それに、喋る相手がいないとつまらないしな。ていうと俺らしくもないセリフだが、

誰かに当てられたかな………。

ルカが俺との同居生活をどう思っているか今まで訊いたことがなかったが、少しでも、ほんの少しだけでも心地いいと思えてくれていたら………。

柄にもなくそんなことを考えていたからか、ついルカの頭を撫でてしまった。

「ん?どーしたの、あーくん?」

「………いや、つい、な」

「?、へんなあーくん」

「………ははっ、そうだな。変な奴だな俺は」

………ああ、ヤバいヤバい。何がヤバいって愛しすぎてヤバい。そろそろ本格的に幼女に手を出しそうだ。だが言い訳させてもらいたいが可愛くて小首を傾げて純真無垢な瞳で見つめられたら誰だってこうなるぞ!

危なかった、俺がアンデットかなんかだったら浄化して滅せられる所だった。

「……警察に通報されたいなら、始めからそう言いなさい」

「………茜、気持ち悪い」

「違う!これは断じて違う!なんていうか、えーと………あれだ、父性だ!決してやましい気持ちがあったわけではない!だから取り出した携帯はしまってください!

そしてさりげなく藍にディスられたのがショックだ!」

他の誰に貶されようとも藍だけは俺を貶さないと思っていたのに………、

「こらこら、楽しく食事をするのは構わないがあまり食事の場で騒ぐのは拱手傍観きょうしゅぼうかんできないなぁ」

「「「すいませんでした」」」

流石上級生、というかこんなに騒がれたらそりゃあ誰だって注意もするか。この状況を台風で例えるならその中心、目に位置するルカは気にする素振りも見せず夢中で食べていた。台風の目は無風状態とはこのことだったんだな、納得納得。(違います)

さて宴もたけなわ、そろそろ楽しいディナーも終わりを迎える頃合い。

店内も人影が少なくなってきたようで、入店時の喧騒は既に遠い。女三人集まれば姦しいと言うが、そういうわけでもなくそれぞれがそれぞれキャラが違く会話すら発生しないため無言の時間が続いた。メンバー唯一の男である俺は話しかけるなんて勇気もなく空気を読んで沈黙を保っていた。喋らなすぎて時間の流れが遅く感じ、いつの間に精神と時の部屋に入ったのかと思った。

キャラが違うといえば紅と藍が仲が良いというか日常的に会話する関係にあるとは第三者から見ると意外というか何というか。

キャラの方向性が違うボッチと言えば聞こえが悪いが、お互い会話を必要としない節が随所随所に織り込まれていて、紅は他者を寄せ付けない雰囲気で藍は控えめで無口だ。

だからなのか会話というコミュニケーション手段を苦手と言うよりは重きを置かない、重要視していない二人だからこそ噛み合うのかもしれない。そういう点で二人は似ているのかもしれない。

「さて、そろそろお開きにしようか。そこの幼女も眠たそうだ」

「そうっすね」

お腹いっぱい食べたからか、ルカは瞼をこすりながらも満足そうな表情を浮かべている。

「ルカ、寝るなよ」

「う〜ん。あーくん、抱っこ」

「………はぁ、しょうがねぇな」

眠っている幼女を抱える男子高校生という絵は中々の犯罪要素が満点な気がするが……、

店の防犯カメラにでも映ってたら完全にアウトだな。

「じゃあ、会計は私が済ませるから。今日は楽しめたよ、色々と……ね」

「そりゃ良かったっすね。………それじゃご馳走様です」

紅と藍も続けざまに会釈えしゃくをした。

「……………ご馳走様です。今日はありがとうございました」

「貴重なお時間をいただきありがとうございました。ご馳走様でした。それではお先に失礼します」

紅の方は特に丁寧に挨拶をして店を後にした。そのことからいっそ信奉と言ってもいい、会長への…………なんだ?憧れ、というか尊敬というか、どれも当たっているようで的外れな気がする。生徒会長という権利や名誉で動くような奴でも多分ないだろうし、なら何故ここまで生徒会長にご執心なんだ?改めて考えると謎だな。………これが後の伏線になんのか?

ただ分かることはここでどんだけ頭を抱えて考えたって、答えは絶対に分からないということだけだ。自分のことすら理解できないのにどうして他人が理解できようか。それは結局の所、自己満足に過ぎない。他者の絶対の理解なんて神にだって不可能だ。

「なに難しい顔をしてるの、さっさと帰りな」

「あ、うっす」

会計を終えたようで会長は店から出てきた。

「今日は無理言って来てもらって悪かったね。仕事のことは追って連絡するから、えーと、誰だっけ………あ、そうそう。あのクールビューティにも伝えておいてよ」

「…………結局名前出てこねぇのかよ」

「いや〜、名前覚えるのは苦手でね、特にこの年代の子はみんな同じ顔に見えて敵わないよ」

「紅 珊瑚、ですよ。そういや名乗ってました?」

「さあ?どうだったかな。名乗ってもらったようなもらってないような………」

「適当っすね」

「まぁ覚えてなかったんだから、どっちでもいいんじゃない?」

「いや、開き直られても………」

「まぁまぁ、いいじゃないか。……………それより」

明るい声色から一転、真剣さを纏わせた声を投げかけられた。

「私に、何か用があったんじゃないの?」

「…………よく、分かりましたね」

「そりゃあ解るよ、君のことだからね」

細く透き通るような指を俺の首に、頰に這わせる。陶器のような指とは逆方向に汗が首筋に伝っていくのが分かった。

誘惑するようなそんな蠱惑こわくな声に思わず身を任せたくなってしまうがそれに抵抗するように一歩下がり顔を逸らした。逃げた、と言っても差し支えない行為だった。

「…………ほんと、よく解りますね」

「ははっ、可愛いね。そんな風に顔を逸らしちゃって。……………それで?話っていうのは何?」

「いや、そんなに大したことじゃないんですけど」

「ふうん、まぁ話してみたまえ」

「あの、今日イベントで逃げ切ったら可及的な願いを叶えてくれるって言ってたじゃないですか」

「うん、言ったね。その願いの話かな?」

「ええ、その相談を」

「で、その願いは?」

会長の試すような眼差しに一瞬言葉にするのを躊躇ったが、何とか言葉を紡ぐ。

果たしてこんな願いが通るのかは謎だが、

これは俺の願いだ。この世から消えて欲しいほど忌々しい存在が俺の目の前から消えてくれる機会だ。この願いが通れば俺は喜んで働くだろう。

だが、この会長の瞳に声に先程までの穏やかさなど微塵も感じさせない。

「あー、そのですね………」

「うん」

辞めるならここが最後のチャンスだ。これ以上踏み込んでしまえば後には戻れない。だけど俺は踏み込むと決めた。俺の願いを叶えるために。

一度、深呼吸をして。


「宿題って無くせますか?」

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