第51話
その話はあまりな
俺の中の正しさ。そもそも、俺の中に善悪の基準が明瞭にあるわけではないと思う。軸もなく地に足着かずにふわふわと適当に生きてきた俺にそんな基準があるとはとてもではないが言えない。そんな人間が善悪を決めていい道理がない。会長にも、紅にも、或いは藍にも。誰しもがここだけは、これだけは譲れないというものを己の中で一本、線を引いて生活している。矜持、自尊心、もしくはプライドと呼べるものだ。残念ながら、俺はそれが欠けている。本当に守りたいものも、絶対に譲れないものも、いざとなれば今のこの関係性さえもきっと壊そうとする。要するに生きる意味が見出せないでいる。生きる意味、と問われても即答できる人間がこの世界でどれほどいるだろうかは知る由も無いが直ぐには思い浮かばない人でも、無意識に己の中に刻み込まれている。だから生きているのだろう。だが、俺は意識的に無いと言える。…………いや、無いのではない。きっと作らないんだろう。自身は自身の観察者たり得ないというか自分自身のことだからこそ理解もできないのかもしれない。ここまではっきりと言い切れないのもこれが原因となっているのかもしれない。
ただ、守るものが増えると弱くなるとか、俺の手には余るとか、誰かを守れるほど強くはないとかそんな殊勝な理由ではないことだけは理解してもらいたい。
「さて、話を戻そう。だいぶ遠回りしてしまったが許容範囲だろう。まだ料理も来ていないそうだし、こんな話を聞きながらでは進むものも進まないだろ?
………それで、仕事を受けてもらえるのかい?」
「やっぱり、性格悪いっすね。そんなの訊くまでもないでしょ。あんな話を聞かされて断れるほど俺は大人ではなかったようですし」
「じゃあ、受けてくれるってことで良いのかい?」
「ええ。不本意ですが。まぁ、貸し、ということにしておきます。貸しというより
「ふふっ、やっぱり君は面白いね。生徒会というより、個人的に『君』という駒を手元に置いときたいと心から思うね」
「どうでしょうね。期待に添えるような結果を出せるとは思いませんよ。ほら、前科がありますし。それに駒ってのは手元に置いとくだけじゃ、意味ないでしょ」
「そうでもないさ。手元に置いとくだけでも
相手のミスを誘うことも出来る。心にもゆとりが生まれるのさ。事件は現場で起きていても、勝負ってのは盤上だけではない。……話は変わるけど、君は将棋指せるのかい?」
「え、ええ。まぁ、少しくらいなら」
一人でよく指してたし。しかも詰将棋じゃなく本将棋。
「じゃあ、今度指さないかい?周りに指せる人がいなくてねぇ。まったく、嘆かわしい限りだよ。最近の子供はボードゲームに興じないのかい?将棋ほど奥が深いゲームも中々ないだろうに。私にはあのピコピコの面白さがイマイチ得心しかねるよ。」
ピコピコって、今日日お婆ちゃんでも言わねぇよ。しかしテレビゲームよりもボードゲームに嵌るなんて、言い方はアレだが前時代的だ。確かにボードゲームも面白いけど。
一緒にやる相手がいなかったから知らんが。
「いや、まるで勝てる未来が見えないんですけど………」
「ちなみに私の
「それは羽生先生の揮毫でしょ。パクリじゃないすか」
「おや、驚いた。将棋をかじる程度の人間は
揮毫なんて知らないと思ったんだけどなぁ。まさか知っていたとは」
「いや、何かでたまたま読んだか見ただけなんですけど。知っていたわけではないです。
ていうかプロでもない人が揮毫なんて作らないでしょ。知りませんけど」
「あれだよ。水は方円の器に
「………左様ですか」
会話が一段落ついたタイミングでちょうど食事が運ばれてきた。
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