第43話

鬼ごっこ開始時間まで残り時間僅かになった所で、一応の、演技ではあるがやる気がある振りをしておこうと思い準備運動を始めた。

まぁ、この鬼ごっこに関しては体力など必要ないのだが。必要なのは体力と言うよりかは知力か。その隠れ場所を思案しているとふと声が掛かった。

「あら、意外とやる気があるのね」

体操着姿の紅だ。その姿を見るのは新鮮、というより初めてかもしれない。

体育は男女別のため、女子の体操着姿を見るという機会は滅多にない。

「あ?ああ、紅か。別にやる気があるわけじゃねえよ。つーか、やる気があると思うか?

こんなのただのイジメじゃねえか。隠れんぼで忘れられたことはあるが、全員で追いかけられるって………」

「なに、その悲しい過去………」

そして、もう一人。

「………茜、頑張ってね」

こちらも体操着姿。俺の義妹である藍。

この二人の組み合わせというのは、中々どうして妙なものだった。

「まぁ、程々に、な。……っていうかお前ら、仲良かったのか?意外だな」

俺が言えることではないが紅に友達がいるとは思えなかった。なので余計に誰かといるというのは体操着以上に新鮮なものだった。

「……うん。仲良いよ」

「い、いや、別に仲が良いという訳ではないわ。ただのビジネスライクな関係よ」

ああ、あれか。二人組を作るときに組んでいるのか……。

つーか、ビジネスライクな関係って……、

おおよそ学校で聞く言葉じゃねえぞ。

まあ、学校は社会の縮図と言うからな。

そりゃいじめも差別も上下関係もあるわけだ。なんなら、大人の対応が出来ない分人間関係の歪みが顕著に表れるのだろうな。

そして何より悲しいのは、言い方が悪いが、

俺と同類の、余り物のポジションにいる紅と藍が組んでいるところだ。もしかして、藍にも友達がいないのか?

…………いやいやいや、そんなはずは無い。俺にも優しい藍だからきっと紅にもその優しさでペアを組んでいるんだろうな。うん、きっとそうだ。そう考えないと悲しすぎる。藍、マジ天使スギィ!

「んで、何か用か?」

ついぶっきらぼうな受け答えになってしまったが、二人は気にするそぶりもない。

「別に。ただあなたは生徒会に入るつもりがあるのか聞きに来ただけよ」

ああ、こいつ。前にも生徒会がどうちゃらとか言ってたな。知らんけど。

「入るわけないだろ、めんどくさい。

誰が好き好んで生徒会なんかに入らにゃいかんのじゃ」

「いかんのじゃって……。口調がおかしいよ。………じゃあ、あまりやる気ないの?」

「ん、まあな。俺自身、ポイントが欲しいわけではないからな。ぶっちゃけ奉仕活動さえ回避できれば後はどうでも良い」

「こんな奴が成績一位なんて………、私はこんな奴に負けたのね」

頭痛でもしてきたのか、こめかみを押さえる様な仕草をした。……こんな奴って何度も言うなよ。まったく、失礼な奴だ。

「………じゃあ、私が捕まえてもいい?」

小首を傾げながら上目遣いで問うてきた。

義妹とはいえ妹補正が掛かっているのか、可愛さが数割増している。………おおっと、やばいやばい、意識が持って、天界に召されてしまう所だった。俺の穢れた心が浄化されそうだ。だけど、この優しさが辛いのは何故だろう。………ああ、あれか。ゾンビに回復魔法使うと逆にHPが減るって奴か。誰が腐乱死体だ!いや、まぁ、性根が腐ってるからあながち間違ってはないな。

けど、女子に捕まるのは男としてのプライドが許さないしなー。いやね、矜持とか尊厳とか全く一ミリとして気にするタイプではないが、そんなものは誇るどころか埃を被っているのだが、それでも女子に負けるというのは抵抗がある。ここは丁重にお断りしよう。

「ああ!是非お前が捕まえてくれ!」

あっれれー?おっかしいぞー?なんで承諾しちゃってんの?

「………うん!頑張って捕まえるね!」

控えめで、それでもやる気に溢れた声で返事をした。

駄目だ、この笑顔を見たら断れない。断れっこない。今にも死にかけているとアナウンスが流れ始めた。

『五分後に鬼ごっこが開始されます。

鬼役の人はビブスを取りに来て下さい』

鬼役は分かりやすいようにとの配慮で目印し代りにビブスを装着することになっている。

「あ、俺か」

「あら、もう始まるのね」

「そうだな。んじゃ、取りに行ってくるわ」

そう言い、とっとこハム太郎の如く走って、本部と思しきテントへ向かった。生徒会主催だけあって、そこには案の定、会長と副会長で義姉、瑠璃の姿があった。

「おーす、茜」

「やあ、茜君。元気してるかな?」

「お二人共、どうも。元気な訳ないじゃないですか。聞いてないですよ。こんな行事があるって」

いつも通りの憎まれ口を叩くが、なんとも思ってないことを思うと、やはり器量の大きさが伺える。

「それは茜がいつも教室で寝てるからでしょ」

げげっ!どうして知っている!

「藍からいつも聞いてるからね」

「さらっと心の声を読まないで下さい。

ていうか、いつもは寝てません。授業中だけです」

「大して変わんないと思うけどな〜

……まぁ、それでも大したものだよ。

授業中寝てるのに全教科満点を取るなんて。

会長直々に褒めてつかわす。

そうそういないんだよ〜、満点取る生徒は」

「お褒めに預かり光栄の極みですよ。

それに、会長こそどうせ満点でしょう?」

「まぁね〜、会長ともなると他の生徒に恥ずかしいところは見せられないからね」

「良く言うよ。会長こそ勉強らしい勉強はしてない癖に……」

「いやいや、瑠璃こそテスト前なのにショッピングエリアをふらついて、そこの捻くれ小僧と歓談してたんでしょ」

何故それを………。

えー?捻くれ小僧って俺の事?

俺ほど自分に正直(ワガママ自己中)に生きてる人間も中々いなさそうなんだけどな。

でも、真っ直ぐに生きていても社会の方が曲がっているから相対的に曲がって見えてしまうのだろうか。

しかし、この人はやはり危険だ。

なんでも見通した風を演じて、いやもしかしたら本当に何でも見通して、見透かしているのかもしれない。さながら千里眼の如く。

この人も能力者なのかもしれない、そう思わせる程度にはやや常軌を逸している。………いや、逸しているのは常軌ではなく常識だ。それとも………人間味か。この人が厄介なのは底が深いからではない。底が見えないからだ。謎めいて、ほのめかして、自分を晒さず、煙に巻く。掌で踊らされて且つ足元にも及ばないと思わされる。

一言で言えば『闇』だ。さらに付け加えるなら、不気味、だ。

「…………全く、会長の情報網には毎度驚くばかりだよ。防犯カメラでも見張ってるの?」

「ふふ、面白いことを言うね。そんな訳ないだろう」

「そうだよねー、まさかとは思ってたんだけど」

いつも通りの予定調和だと言わんばかりの呼吸の一致。相当な付き合いがあったことが伺える。お互い他愛も無い雑談に花を咲かしているが側から見ただけで、この会長に付き合えるのは、この副会長だからこそなのだろうと、そう思わされた。いや、逆か。この副会長あってこその今の会長なのか。

「どうした、後輩。さっきらか黙りこくっちゃって」

「い、いえ、何でもありませんよ。

それじゃあ、そろそろ行きます。時間も時間なんで」

本音を言うと一刻も早くこの場から抜け出したかった。この場に居ると…………自分が分からなくなりそうで。

「ああ、そうだ、茜!」

……が、思惑通りにはいかない。俺の人生、計算通りに行ったことあるのん?

「何ですか?」

「だ・か・ら、敬語が抜けてない!」

「あ、ああ、いや、流石に学校では無理ですって」

「あ!そうだ。じゃあ、この鬼ごっこで捕まったら、学校の中でも関係なく『お姉様』って呼んでもらおっかな?」

「は?いや、おかしいでしょ。おれにメリット無いですしおすし」

「ねえ、会長。名案だと思わない?」

「へえ、面白そうだね。じゃあ、私からも条件出していいかな?」

この人の提案とか、もうね……。

「もう既に嫌な予感がしてるんですけど…」

「今回、逃げ切ることが出来たら可及的な願いを聞いてあげる」

「……もし捕まったら?」

「生徒会に入ってもらう」

デスヨネー。大体予想はついてた。

「あっ、あのー」

「ん?なにかな?」

「ね、願いってどれくらいの範囲の願いなら有効なのでしょうか?」

「そうだねー。まぁ、ある程度の事なら大丈夫だよ。生徒会の権限でね」

生徒会の権限を私的に使うな。

「もちろん、エッチなお願いでもいいよ」

マジでか!これは童貞の肩書きを捨てるチャンスでは?………いや、でも、初めては好きな人の為にとっときたいからな………。

「か、会長。それは駄目でしょ」

「何言ってんだい、瑠璃。君も一緒にやるんだよ?」

「ええー!!」

「当たり前でしょ、君が最初に条件を出したんだから」

「分かりました。その条件、乗った!」

「よし!成立だ。それじゃあ制限時間まで逃げ切ってね〜」

「えー、勝手に話進めないでー」

瑠璃が何か言ってるがスルーで。

「まぁ、多分いけると思いますよ。

………ああ、そうだ。ルールの再確認したいんですけど」

危ない危ない、大事な事を忘れていた。

「うん」

「この学校の敷地内なら良いんですよね?」

「………うん、、ね」

「分かりました。それでは」

さて、少しは気合が入った。過去にどれ程逃げ切っている人がいるか知らないが、そんな事知ったこっちゃねぇな。

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