第42話

三日間に渡るテスト期間も大過なく過ぎ、再び元の生活に戻った。と言ってもテストだからといって特別何かしたわけでもなかったので個人的にはテスト期間は半ドンだから早く帰れてラッキー、みたいなとこがあった。

テストの結果も、まあ、いつも通りだろうし。毎回テストの度に一喜一憂する生徒もいるが、生憎俺にはそんなおめでたい感性は持ち合わせていない。テストの結果如何で左右するポイントにもさして興味もない。

唯一気になるのは、古典のテストだ。

今回のテストで百点を取れば、授業中どんなに寝ていても起こされなくなるという条件を結び付けた。しかしこの学校のテストは極悪難易度で有名らしく、定期テストで百点を取れる生徒は殆どいないそうだ。してや全教科百点など以ての外。数年に一人のレベルらしい。

「それじゃあ、テスト返すぞ〜」

ということで、やってきました。テスト返却日。この日は席替えと並んで最もクラスで騒がしくなるイベントの一つだ。

『うわ、今回赤点だ〜マジヤバイ(笑)』とか

『点数勝負しようぜー負けたらジュース奢りなww』みたいな。マラソン大会で『一緒に走ろうぜ!』ばりの会話が横行すること請負。とは言ってもそんな会話は俺の周囲のみで行われているためさながら台風の目の様相を呈していた。テスト返しは淡々と執り行なわれ、答案を受け取った生徒には落胆や歓喜など様々な表情を伺えた。そして俺の名前が呼ばれ答案を受け取りに行った際、古典教師が明らかに恨みがましい、苦々しく表情をしていた。点数は三桁満点。授業での睡眠が許可された瞬間だった。

その後返された他教科の答案も予想通りの結果だった。気を張っていた訳ではないが、リラックスできたのも事実。僅かばかりの脱力感を覚え、机に突っ伏した。

ーーーしかし愉悦に浸れたのはこの時だけだった。

それは全ての答案が返却された日のホームルームのことだった。

「テストが終わり、疲れているであろうお前らに朗報だ」

担任教師のこの一言がきっかけとなり、俺は

またもや面倒ごとに巻き込まれるのだが、この時の俺は知る由もない。


「学校全体でレクリエーションを行う」



レクリエーションの概要はこうだ。

クラスで一人『鬼役』を決める。その残りのクラスの人間はその鬼役を制限時間内に捕まえる。その鬼を捕まえられたら残りの制限時間に応じてポイントが与えられ、捕まえられず鬼が逃げ切ったら鬼が総取りといったルールだ。逃走範囲は学内の敷地全て。広い敷地を有するだけあって、レクリエーションは一日かけて行われるそうだ。鬼役は例年クラス内でのテスト成績トップが割り振りられるそうで、成績が同率だったら両名が鬼。逃げ切った際のポイントは山分けとなる。

以上がレクリエーションの概要説明。

なんて進学校らしくないイベントなんだ。

鬼ごっこなら体育祭でやれ。

それにしても、鬼役だけは勘弁だ。

クラス全員から追いかけ回されるってどんな罰ゲームだよ。あれか、成績トップはポイント多く貰えるからそれ以外の奴にも救済余地を与えようって腹か。それとも成績良かった奴への憂さ晴らしか。可哀想だな鬼役は。

気の毒だが精々頑張ってくれ給え。

そういえば成績トップだった奴は誰なんだ?

担当教科の教師が言うにはどの教科も百点取ってる奴がいるって言ってたからなぁ。凄えな、この学校で満点とる奴は。………って、あれ?もしかして…………俺か?俺だな。全教科百点取っちゃったし。

ぎゃー!俺が鬼役じゃん!やだよーやだよー!引きこもりになんて仕打ちだー!体力なんてあるわけないだろー!!

クッソ!俺の頭の良さが裏目に出てしまったようだ。………いや?待てよ。確か……捕まってもペナルティは無かったよな。うん、そんな記述はされてなかったはず。なら、早々に捕まろう。そうすればクラスの連中もポイントが手に入り喜ぶだろう。これなら双方にとってメリットがある。名付けて……………特に思いつかないからいいや。これで勝つる!


………と思っていた時期が私にもありました。


レクリエーション当日。開始前に一度全校で集まり、詳しいルール説明がされた。

やはり全校で行うイベントだけあって大多数の生徒たちの熱気に包まれている。

全校巻き込んでのイベントなだけあって、やはり企画は生徒会が主導しているそうだ。

その生徒会のトップがあの二人なんだ。どうせ俺が鬼役になったことは既に耳に入っていることだろう。……面白がって俺に不利なルールとか作りそうだな〜。

軽い鬱状態に陥っていると周囲のざわめきが少なくなり、そして生徒の注目は前方の生徒へ向けられた。

「皆さん、おはようございます。

今日は、雲ひとつない快晴の元でレクリエーションを開催できることを心から嬉しく思っています」

会長の挨拶が始まった。

上品に淡々と挨拶をしている会長を見て、

再度、この人の凄さを確認できた。

いつもはああいう風に砕けた態度で接してくれているが、やはり人の上に立つ存在なのだと。

「さて、本日行われるレクリエーションは

端的に言えば『鬼ごっこ』です。

クラスから一人、鬼が選出され制限時間内に捕まえるというゲームです。詳しいルールは

既に把握していると思いますので割愛しますが………ここで追加のルールを説明します」

追加のルール、その一言で会場がどよめいた。さて、鬼側に有利なルールか又は捕まえる側に有利なルールか。

「制限時間半分未満で鬼が捕まった場合、ペナルティを課します」

………鬼に不利なルールか。

学内の敷地は馬鹿でかいからすぐに捕まるということは無さそうだが、一日使って行われるレクリエーションだからどうなのだろう。

「ペナルティの内容は、テストで得たポイントの半減。学校に対する奉仕活動を行ってもらいます」

そして、と一度区切り。

「このままでは鬼にメリットが少ないので、

………制限時間まで逃走できたら、得られるポイントを追加します」

その追加ルールを聞き、えー!と不満を垂らす生徒の声が会場を包んだ。

そして、気づいてきたのかこちらをチラリと見て。


「生徒会に加入する権利を与えます」


再び会場がざわめき立った。

そりゃそうだ。この学校の生徒会に加入するという意味は、他学校とは少々異なる。

そのため生徒会に志望する生徒も少なくない。というか生徒会に興味がない方が少数派らしい。その権利を与えられるという意味は、まあ、分かるだろう。

でも生徒会って指名制じゃなかったか?

その点はどう融通するのだろうか。

「えー、毎年このイベントは行われますが制限時間まで逃げ切る鬼は殆どいないので」

いっそ嗜虐的しぎゃくてきな笑みと呼べそうな、良い笑顔でそう付け加え、説明を終えた。

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