第41話

「おい!起きろ、千草!」

「……ん〜」

「テスト前に寝る奴がいるか!

それで点数が悪かったら承知しないぞ!」

心地よい夢空間は弩級の目覚まし時計によってぶち壊された。

テスト三日前。テストの出題範囲の授業が大方終わり、自習の時間が増えた。他のクラスメイトは個々それぞれに自分の学習に費やしている。俺はといえば、夢の世界で楽しくトリップしていた。

授業も大抵退屈だが、自習はそれの比ではない。人間、退屈になると大体眠くなる。ソースは俺。

その本能に身を任せて、心と身体を休ませることにした。出来るだけ敵を作らない俺は睡魔とも対立せず、受け入れる体制を取ろうと思います!

なんなら降参どころか無条件降伏まである。

ということで略式裁判の結果、この世の摂理と自然法則の元、睡魔さんは無罪放免ということで。

全俺の満場一致の答えが出たところで、休息を取っていたところだったのに。休息は大切なことじゃなかったのかよ。何故こうして邪魔が入る。けれど、まぁ、こう言われることは想定内の折り込み済みだった。なら、こちらもお決まりの定型句で。

「……それじゃあ、百点取れば良いんですね?」

「ふん、その態度で取れるもんならな」

数学教師は小馬鹿にするように鼻で笑った。

「あ、そうですか。分かりました。

それじゃあ………おやすみなさい」

「寝るな!」

「何ですか。百点取れば良いんでしょ」

「授業中に寝て百点取れんのか!」

「取りますよ」

「……その言葉を忘れるなよ。もし百点取れなかったら………」

「何でもしますよ。先生の奴隷でも何でも」

はあ、このやり取りを何回こなせば良いのだろう。

英語教師から始まって、数学教師に終わる。これで主要五教科七科目はコンプリートした。学校なんてテストの結果がよければ良いだろう。授業態度なんてただの端数稼ぎに過ぎない。この学校ならそれはより顕著なはずだ。

だから、だからこそこの学校を志望した。

その後、クラスメイトから好奇な目で見られたり教師からもグチグチ何か言われた気がするが、気にする俺ではない。糾弾批難愚痴罵倒叱責誹謗中傷侮蔑唾罵。全てはただのBGMだ。そんなもの遥か昔に馴れ合うほどに慣れてしまった。

今更それに何か思うところもない。睡眠の促進になりこそすれ、妨害にならない。なるはずない。所詮はモブ共のさえずりに過ぎないのだから。いつだって俺の世界には俺しかいない。その物語はいつの間にか始まっていて、いつの間にか幕は閉じる。

……いや、既に完結しているかもしれない。

始まってすらないのかもしれない。始まりが終わり、終わりが始まっている風でもあった。そんなことは俺のあずかり知らないことだ。こんな一見の価値もない塵同然の物語のことなんて。人生は舞台だ、と言った偉人がいたが、それで言うと俺の舞台は、制作会社もキャストもスポンサーも脚本も舞台監督も脇役さえも存在しない、観客席すら埋まらない。一人で、独りで、ひとりで、独り舞台に立っているようなものだ。

ある意味独壇場。

始まってるのか終わってるのかすら分からない。悲劇でも喜劇でも活劇でも惨劇でも史劇でも黙劇でも話劇でも国劇でも雑劇どころか

ーーーーーー劇的でもなかった。

承転結どころか起すらない。

おおよそ舞台とも呼べない舞台だ。

一言で言えば『昔々、ある男がいました。めでたしめでたし』 以上。

語る物が無いものを『物語』と呼ばない。

瞼が重くなり意識が沈む中、溜息と共にそんな物語じんせいを一言で締めくくった。

「ままならねえな……」

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