第40話
紆余曲折あり、一悶着あった問題もひとまず片付き、平穏な日々を送れるようになった今日この頃。
学校生活の方は、テスト一週間前となっていた。 入学してから初めてのテストということで図書館やカフェには生徒でごった返している。それもそのはず。
テストの結果如何で支給されるポイントが変化するからである。この制度が他高校よりも優れた結果を出している一因となっているのは間違いないだろう。
勿論、成績上位者であれば支給されるポイントは奮発されるし、下位ならば通常よりも少なくなる。生活にも支障が出るため、まさに命懸けといったとこだろう。流石に言い過ぎな気がしないでもないが。
さしてポイントが欲しいわけでもない身からすれば、若干勉強意欲が欠けているわけでもある。俺はといえば図書館やカフェで勉強するわけもなく、ショッピングエリアでお土産を買っている途中である。
私生活の方では、あの一件以降新たな能力者が現れるでもなく、憑依能力者の再接触もない。ルカはといえば、未だに俺の部屋に住みついている。あれから学校に連れて行くこともなくなったので、楽といえば楽なのだ。その代わり、毎日土産を買っていかなくてはいけなくなったので、まぁ一長一短といったとこだろう。
三十分程悩んだ後、今日はクッキーを買うことにした。この洋菓子店にも最近は殆ど毎日足繁く通っているため、顔も覚えられてしまった。恥ずかしい。
やはりテスト一週間前ということで、人もまばらで、普段からこのくらい空いてたら休みの日でも外出するのにな、と嘯く程度には過ごしやすかった。
帰りに何となく書店に寄り、ラノベコーナーへ直行した。この敷地内には図書館もあるので、わざわざ買う必要性も薄いのだが、人が読んだ本というのがどうにも苦手で通う気にもなれない。
新刊チェックも終え、何も買うことなく書店を出ると久しぶりに見た顔に会った。
向こうも気付いたらしく、数瞬目が合った。
……嫌な予感がする。
すぐに目を逸らし、この場から立ち去る。
が、敵も然る者。二人の間にそこそこの距離があったはずが、瞬間移動の如く、瞬時に俺の背後まで迫りガシッと肩を掴まれた。
「どこ行くの?」
「い、いや……テスト近いんで勉強しないとなぁと思いまして……」
ここはテストを引き合いに出すことで、邪魔したらいけない、という罪悪感を引き出すことにした。そうすれば自然と解放させてくれるはずだ。
だが、俺の浅い考えはすぐさま破壊された。
「テスト勉強する奴が、放課後こんなとこに来る?」
…………仰る通りです。
「それに、その袋………」
「な、なんですか。別に怪しいものじゃないですし。……ただのクッキーですよ」
「クッキー?」
「ええ。部屋で食おうと思って……」
実際は違うのだが、ここで真実を言う必要もあるまい。いや、半分は当たってるか。
それにしても、さっさと解放してくれないかなぁ。そもそも、この人も何でこんな場所に来てるんだ? テスト期間は学年通じて同じなはずだ。必然的に三年生もテストなわけだが。テスト勉強する気がないというのは、この人もなのか?
さっきからずっと袋を凝視しているこの人も
ポイントに執着がないのだろうか。
そういえば、藍が、『お姉ちゃんは勉強も運動も出来る』みたいなこと言ってたような。
暫くの間固まっていたがら考え事が纏まったと言わんばかりにばっと袋から視線を外し、高らかに宣言するように言った。
「よし、じゃあ、茜の部屋で食べようか」
………はあ?
「……はあ?」
見事なシンクロニシティ。
心の声と言葉がマッチした。
「嫌です」
「ほう、お姉ちゃんの命令を断ると……」
「め、命令?」
「そう。お願いでも懇願でも要求でも注文でもない。 ……命令です」
ただならぬ雰囲気、というかオーラをひしひしと感じる。だが、俺もこのラインだけは譲れない。絶対防衛ライン、俺にとっての多摩川だ。タバ作戦を開始しなければいけない。
その後、お互い譲らずの膠着状態となったが結局、押し切られてしまい部屋に招くことになった。この人、ゴジラか。
押しに弱い草食系男子にはパワータイプの『お姉さん』はハードルが高すぎた。
このまま進められるのも癪なので、最後の抵抗、悪足掻きを試みた。
「今、家駄目なんすよ。色々事情があって」
ルカのことは口が裂けても言えないので言葉を濁す。が、やはり無意味だった。
「ああ、あの幼女のことなら知ってるよ」
「へ? あ、そうだったんすか」
「うん。会長から聞いてたし」
そう言われ、納得した。
そういや、この人も生徒会に入ってたんだっけ。なら、それこそ、テスト一週間前にこんなとこでふらふらしていたら、いくら勉強ができるからといって、まずいのでは?
俺が心配することでも無いだろうが、それでも一生徒として不安だ。
というわけで素直に命令に従った。人間、引き際が肝心と言うので、潔く諦めよう。ルカの遊び相手になってくれるなら吝かでもないし。
「ちゅーか、何で敬語なの?」
「いや、一応先輩ですし」
「その前に、お姉ちゃん、でしょ。これからはタメ口ね」
めっ、と窘められるように言われた。
「はあ、そうっすか」
「タメ口!」
「はい!」
「わ、分かった。タメ口で…いいんだな?」
「うん。よろしい」
うんうん、と笑顔で鷹揚に頷いている。
うーむ。女尊男卑の社会で生まれた男なので先輩女子相手にタメ口というのは、中々の無理難題だった。この場合、名前はどう呼ぶべきなのだろうか。家では呼び捨てだったが、学校で呼び捨ては、まぁあり得ないとして。
………もう『先輩』でいいや。
何となくの会話で思い出した。
昔、藍にお姉ちゃんを助けてあげて欲しいって言われてた気が……。あの時は断ったんだっけか。
こうして会話して、この人のことを見てきたが、俺如きの助けを必要とする人間ではないのは分かった。自分のことは自分で解決するだけの力は備わっている。この人の在り方を見て、そう思った。じゃなきゃあの会長の右腕なんて出来るはずがない。
それに俺の手を必要とする事態なんて未来永劫訪れない。仮に訪れたとしても、多分、きっと、助けない。自分からは………助けない。知らんけど。
その後、他愛もなく内容の無い話をしながら
俺の部屋に向かった。その道中の間、珍しく会話が途切れることがなかった。
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