第36話

では本筋に戻ろう。

保健室を後にし現在別棟の元文芸部の、今はもう使われてない空き教室に向かっている。

少しでも早く着くよう走っているためワイシャツには汗が染みていた。気温も日に日に高くなって夏が近づくのを実感させられる。

だが、その汗が暑さのせいだけではないことは分かっていた。

……さっさと解決させないとな。

本校舎から別棟の距離はさほど離れているわけではないが、日頃の運動のしなさがここで祟った。ここまで運動したのは何年振りだろうか。既に足がガクガクで脇腹も痛い。

もう少し日頃から運動しているべきだった。

吐き気を抑えながら、何とか別棟に着く。

校舎だけは馬鹿でかいこの高校。

教室一つ探すのも一苦労だ。

……ええっと、二階の元文芸部の部室だよな。

日が沈み、人気のない校舎は不気味だった。

校舎自体がまるで化け物の体内のような、

そんな気持ちの悪さ。その体内の中に何を忍び込ませているか、皆目見当もつかない。

ふとある事が頭に浮かび、引っ掛かりを覚えた。

正体不明のの化け物、か。

化け物。正確な定義のほどはさほど知識があるわけでもないので判然としないが、簡潔に言うならば、俗に言う幽霊や妖怪変化の類なのだそうだ。そしてもう一つの意味は、

『普通の人間とは思われない能力を持っている人』なのだそうだ。

……ああ、まるで誰かのようだ。

人間、元来正体不明の物が一番怖い。

それが何なのか判明しないから、枯れ尾花でさえ幽霊だと見間違うのだ。

それで言うなら月並みで有り体だが、人間が一番怖いのかもしれない。

不明という言葉は本来なら人間の本性を表すに相応しい。

人間なんてものは俺から言わせれば薄気味悪く、濁流のように底が見えない。

利己的で非合理的で不条理で理不尽な存在。

行動原理も分からず何を考えているかも不明。精々分かるとしても、表面上のみ。

そんな存在を恐怖と言わずに何を恐怖と言うのだろう。

ここで一つ断りを入れたいのだが、俺は決して人間が嫌いというわけでもない。

ここまで否定的な事を論えてきて信憑性も無いかもしれないが、俺は人間が嫌いなわけではない。ただ人間が信用できないだけだ。

この二つは似ているようで決定的に異なる。

必ずしも、『嫌い』=『信頼できない』は成立しないからだ。

例えば、悟空とフリーザみたいな。

え?ベジータ?

……そんな恥ずかしい名前の人、知らない!

いや、知ってますけども。

ドラゴンボールは、今シリーズでフリーザが良い奴になったのが残念だ。元気玉にも協力してたし、悟空を利用するとか言って気を分けたりとか。フリーザ様、ツンデレ過ぎィ!

そういえばベジータは手上げてなかったな。

子供までいる大人がいつまでそんなプライドを引きずってんだ、と言いたくなる。

何だよ、サイヤ人の王子って。いつまで名乗ってんだよ。なに、恥ずかしくないの?

っと、話を戻そう。

性格が最悪で気に入らない奴でも、だからといって信頼しないかといえばまた違う。

嫌いになる程見てきたからこそ、その力量も把握している。それ故の信頼。

そういう信頼関係は好ましいし素直に羨ましいとも思う。

互いに好き合っている関係よりも、敵対関係にある相手との連携は簡単に裏切ることが出来るしな。いざという時に裏切ることができるのは楽でいい。

………こういう事言ってるから信用できなくなるんだな。

まぁ、そんな人間に巡り会うことが出来るかと聞かれればイエスとは言えないが。

こういう話をすると色々思い出してしまうのでここら辺にしよう。

俺の過去についてはここで言及するつもりもないし、聞いたところで誰の為にもなるまい。

そうこうしている間に元文芸部の部室、今は使われていない空き教室に着いた。

相手がどんな手で来るか、一応考えて来たがどうなるか……。

………さあ、助けるか。

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