第34話

「……知らない天井だ」

 一度は言ってみたいセリフ第四位をまさか

 言える日が来るとは。

 あれ?入院した時にも言ったっけ?

 どうも記憶が曖昧だ。

 保健室(多分)のベッドから体を起こし、

 身体を動かしてみる。

 右手、左手、右肩、左肩。足は、まあ取り敢えず後にして。……動作確認、異常無し。

 殴られた頭は、まだ痛むが支障をきたす程ではない。

 窓の外を確認すると、日は既にてっぺんを過ぎ海に沈もうとしている。

 ……かなり寝ていたな。

 その事実に多少驚いていると、ふと声が投げかけられた。

「お、ようやく目が覚めたか」

 声の方に視線を向けると、腕を組みドアに寄りかかっている女生徒がいた。

「いつまでも目が覚めないから、永遠に

 眠りについたかと思ったんだがな……」

 勢いよく身体をドアから離し、こちらに近づいてくる。

 そして、そのまま顔を近づけてきた。

「ちょ、ちょっと……」

「ん?まさか顔を近づけられて緊張してるの

 か?ふ、安心しろ。これは患者に対するただの診察だ。深い意味はない」

 そう言い顔を一頻り見た後、俺の後頭部の

 髪を掻き上げた。

「……よし、傷口は無いな」

「…………」

「ん?なんだその怪訝な顔は。

 それが恩人に対する態度か」

 俺の怪訝な表情に名を知らぬ女生徒は溜息を吐いた。

 そういやこの人、どこかで見たことが……。

「まさか忘れた訳ではないだろうな……。

 はあ、お前の怪我を二度も治してやったろう」

「……じゃあ俺の骨折を治してくれたのは」

「ああ、あたしだ」

 ああ、やはりこの人だったか。

 望む、望まないは兎も角、礼は言うべきだな。

「はあ、あの時はどうも」

「なぁに、あの時はただの気まぐれさ」

 にっと、勝気に笑った。

 男よりも男らしいその笑みに思わず惹かれてしまう。

「そうですか……。なら今回は?」

「? 今回というのは何だ?」

「とぼけないでくださいよ。俺が殴られて

 多分、廊下でぶっ倒れていたんでしょう?

 それを助けてくれたのは何故ですか?」

「あたしは基本気まぐれだからなぁ〜。

 人を助ける助けないも気まぐれ。

 それが理由だ」

「そうですか…」「ああ、嘘だ」

「へ?嘘?」「おう、嘘」

 いたずらを成功させたような子供のような

 無邪気な笑みだ。さっきとのギャップの差に萌えてしまう。これがギャップ萌えというやつなのだろうか。

「おいおい、簡単に人の言うことを信じる

 もんじゃないぞ。まあ、あたしとしちゃあ

 疑うよりも信じる方が好きだけどな」

「その二つは好き嫌いで計ってはいけないと

 は思うんですけど」

「ああ?細けえ事は良いんだよ」

 凄まれてしまった。

 この人、コロコロと表情が変わるなぁ。

「まあ良い。本当の事を言うとな……。

 この事言って良いのかなぁ?ま、良い

か」

 適当だなぁー、この人。

「良いんですか?迷うくらいなら言わない方

 が良いのでは……」

「まあ別に良いや。駄目なら駄目で後であた

 しが怒られりゃ済む話だしな」

「そうですか…」

 この人、見た目も中身もイケメンだ。

 男の俺でも羨ましいと感じる。むしろ劣等感を感じる。俺が女だったら間違いなく惚れてた。

「お前を助けた理由はな………」

 空気が変わった。これからは真剣な話しと

 言わんばかりの表情だ。

「俺を助けた理由は……」

「……会長に言われたからだ」

 理由を聞いた瞬間、僅かに思考が停止した。


「気づいていると思うけどあたしも能力者な

 んだが」

「能力は、まあ簡単に言えば治癒能力だ」

 そう言い、右手を軽くあげながら。

「怪我や傷をコイツで触れば治すことが出来

 る、まぁあくまで表面上のな、つう平凡極まりない能力だ」

「まあ他にも色々条件があるんだが……。

 まあ今は端折るぞ。で、会長のありがたい助 言でお前は助かったというわけだ」

「ほんと、大変だったんだぞ。

 殴った奴はお前を連れて行こうとしてたしな。なんとかソイツを止めて保健室までお前を担ぎ込んでベッドに放り込んだ」

「お前を殴った奴をどうしたって?

 どうもしねぇよ。ソイツをどうしたって

 意味がねえからな。ああ?そのまんまの意味だ。ソイツにお前を殴ろう、つー意思ならぬ意志が無かったのはすぐに分かったからな。なら動機は脅されてるか操られてるかの

 どっちかだろ。だったら叩くなら黒幕だ」

「ああ。もしかしたら裏で手を引いている奴

 がいるかもな。何が目的か分からないが」

「はあ?だから狙いは分かんねえっての。

 まあ、強いて言うなら目的はお前自身か

 お前の周りの奴だな。ってそれは当たり前か。何か恨みを買うような事でもしたのか? それか最近身の回りで変わった事とか起きたか?」

「ふ〜ん、居候が来た、か。なら大方そこら

 辺じゃねえのか。狙われる理由としては。その居候が狙いとか」

「あ?もう帰るのか?つっても時間も時間だ

 しな。まあ気をつけろよ。まだ誰かがお前を 狙ってるかも知れねぇしな。

じゃあな、精々死なない程度に生きろよ。死者は私の専門外だからな」

「あー、ちょっと待て。

 何か困った事があればあたしの所に来い。 基本あたしは保健室にいる。

回復能力を持つあたしにぴったりだろ?」

「何でそこまでするかって?

お前に引っ付いているあのマネージャー、 って、今は違えのか。そうだな、元マネージャーにするか。その元マネージャーと同じ理由だ」

「まあ、あの会長からの御達しも理由に

 あるんだが……」


「そもそも、お前、理解してねえだろ。

 どんな立場に置かれているのか。

 入学早々にあたしと出逢い、能力に触れ

 その後もあの元マネージャーとも関わったろ。それはな……異常なんだよ」

「三年間ここの学校で生活しても能力者と

 邂逅する奴の方が珍しいのに、お前は既に二人と遭遇している。まぁ、会長も一枚噛んでいるのもあるが……。それを抜きにしてもやはり異常だ。……気をつけろよ。

 冗談抜きで死ぬかも知れんぞ」

「それでもあたしとしちゃあ、やっぱり

 そっちの方が面白えから良いけどな」

「ああ、引き止めて悪かったな。

 お前には今、やる事があんだろ。ならさっさと行ってこい」


「生きていればまた会おう」

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