第33話

「きゃ〜!可愛い!」

「お人形さんみたい!!

 俗に言う、黄色い歓声というものを

 まさか間近で聞ける日が来るとは思わなかった。色めき立っている女子達に囲まれているというこの状況を作り出しているのは何を隠そう、ルカだった。

 俺としては居づらいことこの上ないのだが、ルカがいる手前、単独行動するわけにもいかず机に突っ伏して寝ている振りをしているという次第である。

 ていうか、目の前にある引きつった笑顔が

 怖い。

「へーこの子可愛いね。……何処で誘拐して

 きたの?」

 こっわ!棒読みこっわ!

 どうしたら笑顔でそんな声が出せるんだ

よ!

「い、いや、親戚の子を預かっているだ。

 決して誘拐してきたわけではない。

 ………本当だよ?」

 ほんと、ほんと。

 アカネ、ウソツカナイ(大噓)。

 俺は救助を求めようとして隣の席をちらりと見たが、紅はずっと本を読み、我関せずを決め込んでいる。

 くっそ!四面楚歌かよ!!

 ていうか孤軍奮闘?(モア風)

 いや、別に奮闘してねぇな。むしろ逃亡。

 ということで逃げるは恥だが役に立つので

 ここは戦略的撤退を選ぼう。

 さっき単独行動をしないと言ったな。

 あれは嘘だ。

「わり、ちょっとトイレ行ってくるから」

 周囲の女子とルカに声をかけ、教室を後にした。次の授業が終われば昼休みなのでさらに賑わうことが予想される。

 それに先輩と飯を食わなきゃいけないし、

 ……どうするかな。

 どうにか解決策がないものかと考えていると教室の前にも大勢の生徒で賑わっていた。

 ルカの事も既に他クラスにまで広がっていてわざわざ遠いところからルカを見に来る生徒までいる。上野動物園のパンダかよ。

 ちなみに南紀白浜アドベンチャーワールドの方がパンダの飼育数が多い。まあどうでもいいか。以上本日の豆知識コーナーでした。

 ふむ………そろそろ金取ろうかな。

 その後はCD売って握手券を付ければどこかの48人のアイドルグループみたいに儲かる!

 そんな益体も無いことを考えながらトイレに向かわず廊下を他クラスの様子見ついでにふらふらと徘徊する。

 俺がクラスを出る際には、廊下にかなりの生徒がいた所から相当数が見に来ていたことが分かったが人の少なくなった空虚な箱を見て驚きを隠せない。まさかここまでとは思わなかった。今の所パトカーのサイレンの音が聞こえないので通報されてないが、痛くもない腹を探られる可能性があるため何か手を打ちたいのだが現段階において俺が出来ることは何も無い。我ながら本当に使えない男だと思うがこればっかりは仕方がないように思える。その他大勢において、俺個人の意思がどうかなんて無意味で無価値だ。

 一人の存在なんて二人いれば容易く潰せる。

 この世界は質より量なのだ。そんな世界において俺が先手を打てるわけがない。

 しょうがない、何か起きてから考えるか。

 今の所一番の懸念はルカの能力の暴発だしな。それ以外は勝手に放っておいても時間が経てば騒ぎも収まる。人の噂も七十五日。

 ……出来るなら一週間程で収拾をつけてほしいものだが。

 そろそろ授業開始時刻なので、廊下にはほとんど生徒がいない。来た道を引き返し自分のクラスに戻ろうとした時、

 ーーーーー後頭部に衝撃が走った。

「ッッッ!!」

 一瞬何が起きたか分からなかったが、

 頭部を巡る鈍い痛みが状況を脳に伝えた。

 視界が明滅し、沼に沈み込むように体が

 倒れていく。

 倒れざまに視界に映り込んだのは俺の後ろに佇む女子生徒。

 凶器までは分からなかったが、大方見当はついた。まさか、女子に後ろから殴られるなんてな。夢にもみなかった。

 ああ、あの名探偵もこんな気分だったんだな……。脳内でどうでも良い事ばかりが浮かんでいる。最後の最後まで俺の脳はしっかりと働いてくれないようだ。そんな異常で正常な脳を持ってしても少し気になったことがあった。

 俺を殴った女子はどんな表情だったのだろうか。それが知りたい。≪≪それだけが知りたい。≫≫

 不思議と憎悪を抱くことなく、場違いにもそんな事が脳裏によぎった。

 まあ、こんな経験するのも悪くない……。

 なんて、俺にしては珍しく心にも無いことを思った。

 まあ、少しくらいニヒルに格好つけてなきゃやってられねえか。それに昨日はよく眠れなかったから少しくらい寝てて良いよな?

 なら死なない程度に保健室で寝ることにしよう。

 ただ一つ心残りがあるとしたら……………。


おやすみ。


 そのまま俺は廊下に沈み込んだ。

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