第28話
「つーか、先輩。聞きたいことがあったんですけど」
ある日の昼休み、いつも通りベンチで先輩と昼飯を食べていた。
聞きたいこと、確認という意味合いもあるのだが、何故今のこの関係性になったのか、
根本的な部分が自分自身でもまだ消化しきれていなかった。別に今のタイミングでなくても良かったのだが、ふと頭によぎったので忘れないうちに質問しようと思った次第である。
「ん、なに?」
「いや、別に答えなくても良いんですけど、
俺が先輩を呼び出して、能力者がどうとか
話をしましたよね」
「うん。したね」
「その時、どうして先輩が正直に自分の正体を明かしたのか分からなかったんですよね」
紅葉さんが能力者であることは本人の口から直接聞いたし、後日目の前で能力を見せてもらった。実際に目の当たりにすると中々衝撃的だった。付けている眼鏡を外すことが能力発動の条件らしい。
しかし、あの時俺に正体を明かす理由が全く
思い浮かばない。別段、聞こうとは思わなかった。自身の消化不良はいつもなら自分勝手で納得できる理由でも考えて飲み下してしまえば良かったのだが、今回に関しては、
間違ったまま、勘違いしてそれで終わりにしてはいけない気がした。
これもただの自己満足なのだが。
だからこそ紅葉さんが嫌ではないのならばその理由は聞いてみたかった。
「うーん、深い理由があるわけでもないんだけど、面白い子が現れたと思ったからかな」
「俺がですか?」
「うん。別にマネージャーをやっていたのも
暇潰しみたいなものだったし、君といた方が
面白そうだと思ったからかな」
「そうですか。いや自分で言うのもなんですけど決して面白い部類ではないですよ?」
自分がつまらない人間という自覚はあるし、
他人を楽しませられるとは思ってもいない。
にも関わらず、俺とは正反対の答えを導いた
その真意を探りたくなった。
「そんな、表面的な理由じゃないよ。
面白いのは君の行動の事さ」
「?」
そう言われたがいまいち要領を得ない。
「例えばの話。もしあの時、私が正体を明かさず能力で君を攻撃してたらどうするつもりだったの?」
そう聞き返されたが、俺の答えは決まっていた。
「殺すつもりの攻撃ならそのまま死んでいただろうし、そうでないなら金輪際、あなたと関わらないようにしてました。
結局の所はどうもしなかったですよ。
いや、どうにも出来なかった、が正しい言い方ですかね」
「嘘だね」
即答だった。まるであらかじめそう言うことを予想していたようだった。
そう言って、嗜めるように俺の額に人差し指を当てた。
「気づいてたよ、茂みに携帯を設置していた事。能力を使ったら録画されるようにしてたね」
「そんな事してませんよ。誰かが携帯を落としていったんじゃないですか」
「無理のある言い訳だね。ま、もし私がそれに気づかず攻撃してたら、生徒会長に捕まるとこだったよ。能力使わなくて本当に良かった」
俺の浅はかな行動なども全て分かっていたと、そう言われているようだった。
「じゃあ、能力使って携帯壊せば良かったんじゃないですか」
俺が呆れ気味に言ったセリフに、紅葉さんは大げさなリアクションをした。
「ああ、そうか!その手があったのか」
「わざとらしいですね」
本当はそれすらも気付いていた気がして、
呆れを通り越して軽く引いている。
やはり、この先輩は侮れない。
「まあ、そんなとこだよ。理由としては」
「そうですか」
「これからも面白い事、見せてくれるんでしょ?」
紅葉さんは悪事を共有するような、邪悪で無邪気な笑顔で問うてきた。
「さあ?ご期待には答えられるかわかりませんよ」
そんな事に巻き込まれるぐらいなら俺はスルーする。その自信がある。
「いや、断言するよ。君はこれからも面白い人に巻き込まれる。私みたいな人にね」
「先輩みたいな人って……」
やめてくれよ、能力者って事じゃん。しかも会長の事もあるし、否定出来ないとこがまた
嫌だ。それに度々言うが、面倒ごとには巻き込まれたくない。積極的に回避していきたい所存です。
「魅せてね?」
先輩のその問いに、俺はまだ答える言葉を
持ち合わせていない。
その問いに俺の言葉の代わりに急に吹き荒れた風が答えたような気がした。
本日のカリキュラムが終了し、俺は寮に戻った。丁度今日がこの高校に入学してから一ヶ月が経ち、毎月この日にポイントが振り込まれるようでこの月は特にイベントが無かったため、必要最低限のポイントだけが振り込まれていた。だが、高校生が一人暮らしするには十分なポイントだった。学校の周りの店と言っても派手なものは無く、本屋やこの間、藍にシュークリームを奢った、カフェといったある意味高校生向きと言える店がある程度で、後はファンシーショップや家電量販店など日常生活で使う物ぐらいだ。
それでも無駄なポイントを使う馬鹿がいない訳ではなく、ポイントが振り込まれる前の週あたりになると友達にポイントを借りる生徒も少なくないそうだ。
むしろ、俺みたいにポイントを最低限しか使わない奴は少数派らしい。
あくまでも学力や運動能力の向上を目指すためのシステムで厳しいルールは無いようだが
この先に何が起こるか分からない。
能力者の存在を知ってる身からすれば、
使えるものは少しでも増やしておきたい。
いざという時に、物を買って有効に使える時が来るかもしれない。
まあ、杞憂に過ぎてくれればいいのだが。
寮に着き自分の部屋へ向かい、
自分専用のカードキーを使って自分の部屋へ入る。ちなみにこのカードキーは複製可能のようで合鍵ならぬ合カードがつくれるようだ。鞄を投げ捨て、ベッドに倒れこむ。
この瞬間が学校が終わったのだと、高揚感を感じさせる。
すると妙に柔らかく、もちもちした感触がした。不思議に思い布団をめくってみると、
そこにはワイシャツ一枚の美少女が寝息を立てていた。
………よし、一旦落ち着こう。
玄関を出て、自分の部屋番号かどうか確認したが自分の部屋に間違いなかった。
えーと状況をまとめると……自分の部屋に戻ったら布団の中でワイシャツ一枚の美少女がすやすやと眠ってる。
うむ、大体状況は分かった。
……………いや、やっぱ分からん。全然分からない。むしろ分かりたくない。だが放置した場合、俺は社会的に死ぬ。
一つ分かることはこのままでは俺は犯罪者に成り下がってしまう事だ。
やばいやばいやばいやばい。
俺は誘拐犯として夕方のニュースで報道されてしまうかもしれない!そんなことしてないのに。
そもそも、俺はロリコンじゃないから!
小さい女の子が好きなだけだから!
いや、それはロリコンですね。
まあ今はその話は置いといて。
チキンハートの持ち主の俺に幼くて可愛い少女を誘拐なんて出来るわけがない。
そもそもこの敷地に高校生以下の人間が居るのか?俺自身もまだこの学校の全貌を知っているわけではないので何とも言えないのだが特例でもない限りその可能性は限りなく低いと思う。
まずはどうすれば良いんだ?取り敢えず学校に言った方が良いだろうか。
いや、下手したら一緒に外に出た時点で誰かに見られたら、犯罪者認定されて学校に通報され退学なんてこともあり得る。
そもそもなんでこんな小さな子が俺の部屋に入れたの?そこが一番の疑問なんだけど。
(この答えが分かるのは、まだ先のことになるのだが)
どうすれば良いか分からず部屋の中をぐるぐる回っていると、ベッドの方から声が聞こえた。
「う〜ん、むにゃむにゃ」
おや、ワイシャツ姫(勝手に命名)がお目覚めのようだ。
「………あれ?ここ……どこ?」
状況が飲み込めていないのは、ワイシャツ姫も同様のようだ。
「あの〜すいません。ここ俺の部屋なんですけど部屋間違えてませんか?」
初対面の人間に会ったら歳関係なく、
まず俺が下手に出る。これが長きに渡る
コミュ障人生を生きてきた俺の処世術。
これをすれば大体円滑な会話に運べる。
まあ本当に円滑に会話を運べてたら、コミュ障になってないんだけどな。
「……ううん、この部屋だよ」
「えっ、この部屋?」
俺の問いに黙って首肯した。
ええ〜、俺この部屋から追い出されるのん?
最近、ようやくこの部屋に少し愛着が湧いてきたのに。
「そっか、まず名前教えてもらって良いかな?」
「…………ルカ」
「ルカか。今何歳?」
「……10歳」
「10歳⁈」
突然大声を出したので、ルカはびくっと体を
震わせた。
「ああ、悪い。大きな声出しちゃって」
そういや、俺も名乗ってなかったな。
「俺の名前は茜。15歳だ」
「あかね?………あーくん?」
「おおーそうだぞ。あーくんだぞ」
首をこくんと傾げている。
やばい、可愛すぎる。これはロリコンというより父性に目覚めそうだ。
そんな事よりも気になることがある。
ルカの外見からして日本人じゃないのか?
髪の毛も金髪で、お人形さんのような整った顔立ち。将来は美人さんになること間違い無し、といった感じだ。
名前も日本人ぽくないのだが日本語を話せるところから日本に住んでると予想できるが、
よりにも寄ってこの特殊な場所に来てしまうのはどう考えても普通じゃない。
「なあ、ルカ。どうしてここにいるんだ?」
「……気づいたらここにいた」
「お父さんとお母さんはいるのか?」
「…今は……いない」
聞いてはいけない事だったのか、ルカは涙ぐんでしまった。
「ああ、ごめん。聞いちゃいけない事だったな」
誰しも人には触れられたくないことはある。
それはこんな幼い少女にも例外ではない。
そんな事も慮ってやれなかった自分自身に
苛立ちを感じた。
しばらく話をする間に二人の距離も縮まってきた。ただいつまでもルカを部屋に置くわけにもいかないので部屋に留守番してもらって一度学校へ向かい、教師に話をしようとした。取り敢えず荷物を置いて部屋を出ようとしたら、不意に服を引っ張られた。
「?、どうした?」
「……ルカも行く」
「いや〜、一緒に行ったら俺、犯罪者扱いされちゃうからな〜」
ただでさえ寮生活の高校なのに、こんなお人形さんみたいな少女と一緒にいたら間違いなく誘拐してきたと誤解される。
それだけは避けたい。
「……ダメ?」
上目遣い+潤んだ瞳のコンボをダイレクトアタックされた。このコンボを受けた世の男は間違いなく死ぬだろう。
むしろ俺の心が超回復してる。めっちゃ癒されてる。
「まあ良いか。じゃあ一緒に行くか?」
「うん!」
初めてルカは年相応の明るい笑顔を浮かべた。そうして二人で学校へ向かい、教師に話をつけることにした。
途中、部活動をやっていると思しき女子達が
二人で歩いているところを見て、ひそひそ話をしていた事は気づかないふりをした。
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