第25話
「桃染紅葉、か」
名前が分かった所で軽くおさらいしよう。
桃染紅葉。
高校二年生。
バスケ部のマネージャーを務める。
紅葉が入った事によりライバル校や大会に勝利出来るようになったことにより、部内では
勝利の女神扱いされている。
他に何人かマネージャーが居るが、シューズの色から見るに、二年生では唯一のマネージャー。
その実績と俺の経験からすると、何かしらの能力、推察だが念動力[サイコキネシス]を使うと思う。ただ決定的な証拠、発動条件が分かっていない。この状況で動くのは無謀で無意味だ。暫くは様子見に徹するしかない。
練習試合を見学して、二時間近く経った。
未だ能力と思しき現象も発見できず、帰ろうかと思っていた。むしろ始めから帰ろうと思ってたまである。藍は、と横を見たが視界に居なく、周りを見たら近くのベンチで休憩していた。まあそりゃそうだよな。大して面白い話をしてやれた訳でもないし、退屈するのも無理はない。
「藍、もう帰るか?」
「そうだね、少し疲れちゃった」
「ほんと、悪かったな。休日まで付き合ってもらって。今度シュークリームでも奢るよ」
「いいよ、気にしないで。バスケの参考になったし」
「それじゃあ俺の気が済まないんだよ。
良いから奢させろ」
「…まあそこまで言うなら。じゃあ一番高いのね」
渋々といった態度だが、了承してもらえた。
それに一番高いのじゃなきゃ礼にならんし。
「お、おう」
「冗談だよ。……二人で出掛けられたらどこでも良いし」
藍は小さい声で呟いた。
「あ?何て言ったんだ?」
「いや、何でもないから!」
珍しく、というか初めて藍が取り乱したところを見た。本人が何でもないって言うなら何でも無いんだろう。他の人間ならそのセリフを絶対信じないが藍なら信じちゃう。
俺ってば、激甘!
「じゃあ、約束は早い方がいいよな。
………明日とか空いてるか?」
。いや、女子と出かける約束とかした事ないから仕方ないんだって。モテない男子なら絶対分かってくれる。
「今日明日は部活休みだから。空いてるよ」
「そうか。……じゃあ明日、な」
「うん」
その会話を最後にしばらく二人の間に会話は生まれなかった。
体育館を出ると、サッカー部の歓声や野球部の掛け声などグラウンドには喧騒が広がっている。以前、俺はそれに直接関わっていたわけではないが、数ヶ月前までは別の場所で当たり前のように毎日聞こえていたはずだ。
そのせいか懐旧の情を唆られ、寂寥感を感じた。これが黄昏時ならさぞかし絵になっていただろうと安直で稚拙な感想を抱いた。
自分の目標に向かって努力をしている人達の
フィールドには間違っても俺みたいな人間は入ってはいけない。無気力で自堕落的な俺は。そう思い、逃げ出すように学校から立ち去った。もう此処には足を踏み入れたくないが、しかし、今日の試合を見てそういう訳にも行かなくなった。
学校の敷地から二、三分くらい歩いた所に
一年生の寮がある。
基本、寮は学年ごとに違う。裏を返せば、
同じ学年だと男子、女子関係なく同じ寮に振り分けられる。勿論、男女で階層は違う。
寮の玄関で藍と別れ、俺は再び学校へ向かった。午前中に何の収穫がなかった分、午後は
さらに集中して観なければいけなくなった。
何もありませんでした、では済まない。
あの生徒会長は何考えてるか分からないし、
同じ生徒会の瑠璃さんに危害が及ぶかも分からない。どうなるかなんて俺は何も分からないし、知らない。それでも1%でも確率があるのなら全力でそれを潰さなくてはいけない。
絶対に成し遂げなくてはいけない事が必ずある。それがたまたま、この能力者探し、延いてはその対処だっただけだ。
まあ、この件を終えたあと、あの生徒会長から報酬というかご褒美的なものがあるらしいのでタダ働きではないというだけでモチベーションもかなり変わってくる。
け、決して卑猥なことを頼もうなど思ってない。俺は初めては好きな人がいいし、あの会長にそんな事は間違っても頼めない。というか、間違いなくこの学校から消される。
一介の生徒会長にそんなこと出来るか甚だ疑問だが、そう思わせる空気、風格を纏っているように感じられた。
まあ、そんな事考えてもしょうがないね!
ただ与えられた仕事をこなすだけだ。
俺は再び、虚偽と喧噪入り混じる体育館へ向かった。
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