第24話

部活動勧誘会があった三日後の土曜日、バスケ部の練習試合がこの学校あると言う事で

それを見学する事になった。

一人では心細いので藍に同行してもらう事にした。

「練習試合は10時からでいいんだよな」

寮の前が待ち合わせとなっていたが

人通りが多く、見られて誤解されたくないので学校前にしてもらった。

そして今は藍と体育館にいる。現在時刻は9時20分。学校に入ると言う事でお互い制服だ。

「うん、10時から開始で、15時に終わり」

「悪いな、休日にまで付き合ってもらって」

「ううん、気にしないで。私もする事なくて

暇だったから」

女神や、この子女神や。

今までの人生で会った事ないよ、こんな優しい子。

「とりあえず、午前中だけ観て、収穫が無けりゃ時間いっぱいまでいるわ。

藍は好きな時に帰っていいから」

「うん。って収穫ってなんの?」

「いや、何でもない。言葉の綾というか、誤りというか」

「ふーん。そっか」

特に言及されない事にほっとしながら、

コートに注目する。

相手校の生徒と共にウォーミングアップをしている。件の女子マネージャーはドリンクの用意をしているようだ。

相手校は同じ地区で、実力が拮抗しているため地区大会の決勝ではいつもこの両校が当たっているそうだ。

ただこの二年では我が校が勝ち越している。

そう、あのマネージャーが入部してからだ。まさに勝利の女神様様だ。

拮抗している相手だからこそ、能力を見せるかもしれない。こちらにしてみれば好都合だ。試合が始まるまでの間、藍に男子バスケ部の部員について話を聞いた。

藍は激しい勧誘の末、結局女子バスケ部に所属し、そこですでにスタメン候補になっているそうだ。

「男子バスケ部はあまり飛び抜けた選手は

いない印象だな。全員でパスを繋いでゴールを決める、とにかく繋ぐチームって感じ」

「なるほどなぁ」

「もしかしてバスケ部に興味あるの?」

「いや、まあそういうわけでもないんだけどな」

「……そうなんだ」

入るつもりはないと聞いて、明らかに落胆したような表情を見せた。

やめて!罪悪感が湯水のごとく湧き上がっちゃう!なんなら今すぐ入部届けを貰いに行こうと思っちゃう。

藍の話を聞いていると10時になり、練習試合が始まった。

話に聞いてた通り、お互い実力が拮抗していて中々試合が動かない。

時間が進み、取って取られてのシーソーゲームとなっている。

俺はちらりと女子マネージャーの方を見る。

茶髪のショートカットに遠くからでは顔がよく見えないが眼鏡を掛けている。

眼鏡を掛けているが、知的というよりは快活そうな雰囲気がある。

これで可愛かったら、そら女神扱いされますわ。

少しばかり長い時間見ていたせいかその視線に気づいたようで女子マネージャーがこちらを向いた。

すると、目が合ってしまった。

彼女と目が合った瞬間、俺は蛇に睨まれた蛙のように動く事が出来なかった。

金縛りのような感覚だ。息は出来るのに体を動かせない。

唯一動かせるのは目だけだった。

そのせいか、向こうを睨むような視線になってしまった。

彼女はその事を嫌だと微塵も思わせないような、完璧な笑顔を見せた。

その後、すぐに視線を外し選手たちに声を掛けていた。

その瞬間、俺の金縛り状態も解けた。

なんだ、女子に目が合うとどうしたら良いか分からずに固まっちゃう病か。

さっき動けなかったのはきっとそのせいだな。

俺が心の中で安心していると、俺の隣の少女は穏やかじゃない雰囲気を醸し出していた。

「女子マネージャーさんに見惚れてた?」

こっわ!なんで笑ってるのにそんな冷たい声が出せるんだよ。

「べ、別に、そんなんじゃないれすよ?」

あまりの怖さに思わずかんでしまった。

俺の言い訳も虚しく、藍の凍てつく視線は未だこちらを向いている。

そろそろゾーマと互角で戦えるレベル。

急に俺に対する態度が変わりすぎませんかね? まあ、もういいや、諦めた。

「ま、まあそんな事より試合見ようぜ」

「まあ、もういいや」

そう言って藍は再びコートを見つめる。

最近、藍は結構気分屋というか気まぐれだと気づいた。一度素を出すともう猫を被んなくなるタイプだな。いや、まあね?心を許してくれたと思えば嬉しくないわけじゃないですよ?そりゃこちらも思春期真っ盛りの男子ですし?そういう女子が居たら嬉しくないわけないですし。ただ嬉しい反面怖くもある。

すぐに縮まる距離は、簡単に離れられてしまう。だから必要以上に踏み込まないし踏み込ませない。それが俺の処世術だ。

まあ健全なスポーツの前に暗い話をするのは野暮ってものだ。

俺は再度、女子マネージャーを見た。っていうか毎回女子マネージャーって言うの面倒だな。

「なあ、あのマネージャーの名前知ってるか?」

藍は思い出そうとするように見上げた。

「うん、知ってるよ。えっと……」


「桃染紅葉さんだよ」

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