訓練

「……はぁ、はぁはぁ……」


荒い呼吸を整えるように意識しつつ、その場に立ち竦む。

……疲れた。


今は授業が終わって、自由時間。

私は学園や王都から離れた、平原にいる。

必要最低限の授業しか取っていない私は、意外と時間に余裕があるので、こうして日々自主練をしているという訳だ。


……強く、なりたい。


その思いは、幼い頃から変わっていない。

むしろ、強まっていた。……ボナパルト様の一件で。


そんな訳で、私は暇な時間を見つけるとのめり込むように訓練をしている。

おかげさまで、魔力の保有量は右肩上がりだ。

辺りを見回せば、地形が変形しているのが如実に見て取れるほどに。


呼吸が整ったところで、水筒の水を飲み干す。

……ああ、美味しい。


「……ルーノ」


訓練中は決して近づかない賢いルーノは、それが終わったと見るとすぐに擦り寄ってきた。

その毛並みに、癒される。



「……あら、今日は大物を狩ったのね。偉い、偉い」


鉄臭いと思ったら、なんとルーノが先ほどまでいたところには魔獣の死骸があった。

ルーノは基本、肉食だ。

魔獣や普通の獣肉などを食べる。

私に育てられたからか、人を害することはない。

始めのうちはそれを少し、危惧していたのだけれども。


「……さて、帰るか」


ルーノに水魔法をかけて、血を洗い流す。

次に別の魔法をかけて、魔の気配を感じさせないようにする。ついでに、姿も犬と変わらないそれになった。

魔獣と普通の獣の違いは、内包する魔の気配。

編み出すのは難しかったけれども、幻術の応用で試行錯誤の上にやっと作り上げた自慢の魔法だ。


帰寮すると、たまたま入口前でサーロスに遭遇した。


「……随分遅い帰りだね、クラールさん」


私に気がついたサーロスが、爽やかな笑みでそう言った。


「……ルーノの散歩に行っていたのよ」


「そっか。仲、良いんだね」


……そうね。少なくとも、ニンゲン以上に信頼できるから。と、心の中で思いはしたものの、それをワザワザ口にすることはない。


「そうね」


それだけ言うと、私はさっさと寮の中に入った。


部屋に戻ると、宿題を一気に片付ける。

とはいえまだ授業は始まったばかりだから、すぐにそれも終わった。


……眠い。


シャワーを浴びると、重い体をベッドに沈める。

ルーノが、私のそばに寝転んだ。


授業を受けて、訓練をして、疲れて泥のように眠る。

それが、私の毎日の日課。

強くなる、その目的だけが今の私の支え。


ペロリとルーノが私の顔を舐めた。


「くすぐったいわ、ルーノ」


思わず、顔が緩む。


「……おやすみなさい」


そう告げれば、ルーノは「クゥーン」とまるで返事をするように鳴いた。


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