入寮
入学式は入学を祝う場というよりも、今後の諸注意事項やカリキュラムの組み方等々を伝達するためのような式だった。
淡々とした式が終わると、私は寮に向かう。
学院には、学生のための寮が隣接されていた。
入学者は国内のあちらこちらから集っていて、王都に別宅を持っていたり別に宿を借りる事ができる貴族を除いた地方出身者は、大抵この寮に入寮するのだ。
テレイアさんのところに居候させてもらうか悩んだけれども、ここの滞在料や食費とうとうが無料ということを知って、この寮に住むことを選んだ。
ただでさえ子どもたちがいるテレイアさんの厄介になるのは気が引けたし、かといって私の貯蓄も心もとないし。
というわけで、寮に入寮することを選んだのだけれども……私は、寮の前で固まってしまった。
一言で表すのなら……ボロい。
それに尽きる。
果たしていつ建てられたのか……劣化は目に見えて分かるほどだ。
それでいて蔦が外壁を埋め尽くしているのだから、まるでどこぞのお化け屋敷といった風態だ。
思わず、しげしげと寮を眺めてしまった。
……けれども、よくよく考えたらそれも当然か。
この寮に住むのは、大半が平民。
王国からの予算は確かに出ているが、学園の運営費でカツカツで、ここに回すほどの予算がないのだろう。
逆に校舎が美しいのは、貴族たちもそこで学ぶからで、彼らが寄付したお金でせっせと改築をしているのではなかろうか。
まあ、タダだし良いか……と自分を納得させて、入寮の手続きをした。
幸いにも、部屋は一人部屋だった。
……やっと一人が入るような、本当に狭い空間だけれども。
住めば都と言い聞かせつつ軽く部屋の清掃と荷ほどきを終え、私は食堂に向かう。
食堂は男性用の棟と女性用の棟との間にある共有部分で、かなり広い。
寮生は入寮手続きの時に受け取った身分証を職員に提示して、食事を受け取るシステムだ。
食事の乗ったトレーを受け取り、適当に席に着く。
ちょうど夕食時に来てしまったせいで、食堂は大分混み合っていた。
運良く空いていた席を見つけて、そこに滑り込む。すぐに、斜め前の席にも二人組の女性が座った。
……とりあえず食事が終わったら、カリキュラムを今日中に組んで、明日の朝には提出してしまおう。
そうしたら、カリキュラムを組む期日の明後日までの間は自由時間だ……子どもたちに、会える。
そんなことを頭の中で考えつつ、食事を摂っていると俄かに騒がしくなった。
……また、あの男か……と思っていたら、案の定だった。
「サーロス君!こっち、空いているよ!」
斜め前の女性が自身の隣の席……つまり私の前の席を指差して、声をかけた。
サーロスって、まさか、あの男ではないよね?……なんて希望的観測を抱きつつ見れば、食堂のざわめきの中心であった件の男が、ゆっくりと近づいて来た。
……面倒ごとはごめんだ。さっさと食べてしまおうと、私は手を動かすスピードを速める。
「ありがとう」
サーロスは爽やかな笑みでその女性に声をかけると、席に座った。
「前の席、失礼しますね。初めまして、僕の名前はサーロスと言います。貴女の名前は……?」
まさか、私に聞いているのか……?と俯いていた顔を上げると、バッチリと目が合う。
「……クラール」
「そうですか。よろしくお願いします」
「……こちらこそ」
特別な会話は特になく……というかむしろ、私が素っ気ない態度だったため、会話が弾むわけもなかった。
けれどもサーロスは気にした様子はなく、自己紹介を終えるとやがて自身を呼んだ女性と、カリキュラムについて色々話し合い始めていた。
「……お先、失礼します」
聞いていないだろうけれども、一応挨拶をしてトレーを下げる。
周りを見れば、混み合って席を探している人がチラホラいた。
これからは、食堂が開いてすぐに来るか、もしくは時間をズラした方が良いな……そんなことを思いつつ、部屋に帰った。
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