召喚してみよう

イストワールは精霊召喚術を極限まで改変し、異世界の「概念そのもの」を物質化して引き寄せる賭けに出たのです。

通常の魔法陣は一層だが、イストワールの改変精霊召喚術は、「多重次元演算」を行うために三層の円環がそれぞれ独立して超高速回転している。

今回の召喚陣の最大の特徴は、浮遊する「概念の扉」

この術式の最大の特徴。召喚対象を「いきなり床に現れさせる」のではなく、わざわざ「扉」を介させることで、対象の条件付けを行う。

異世界の「概念そのもの」を物質化して引き寄せる賭けに出るので、安全装置を多重に施すことに余念がありません。

まず、召喚されて来るモノが「自我」があるのか?どうか?が重要である。ただの現象として巨大なエネルギーの塊が召喚されてしまうと、召喚された賢者のいる世界のバランスが崩れ大きな被害が起こるかも知れない。そこで「概念の扉」を用いて万が一の事態に対応する。

次に「概念の扉」にはドアノブが存在する。これは、知性があるかどうか?自我があるが目に見えるモノを破壊するだけの暴力の獣ではない、扉を開けるのにドアノブを回すという行為が出来る事により、コミュニケーションの有無を確認出来るようにしている。

次に「概念の扉」が浮遊する事は、この世界に干渉するのには、三層の召喚陣を抜ける必要があるが、召喚に問題が生じた場合、途中でキャンセルする為である。扉を召喚しているので、扉その物をキャンセルする事により概念の召喚を間接的にキャンセルする事にしている。

また、扉の大きさを設定することにより、召喚されたモノのサイズを選別する事が可能になる。扉を通り抜けないサイズのモノはこちらの世界に召喚されない。または、想定外に大きなヘビのように長い体型の場合は、扉自体の召喚をキャンセルする事により、対応をしている。

俗に言う「異世界勇者召喚」の様に魔法陣のみでの召喚は、不測の事態が発生した場合の安全対策に疑問を感じている。不足の自体で、召喚陣を超える物体が徐々に出現してその場を破壊する事に不安にならないのかと考えてしまう。そこらへんの危機感が無いことが無作為な召喚をする愚行に繋がるのだろう。

「概念の扉」の召喚自体は、第一層の魔法陣で十分である。第二層の魔法陣は、異世界との相違を調整するモノである。扉を介するので工程が一つ増えるが、安全な召喚に関して言えば理に叶っている。第三層は、結界の陣である。召喚された直後の召喚されたモノの情緒が解らないからである。パニックになると想定外の行動を起こす事は往々にある。

更に重要なのは、召喚陣のある空間は魔法陣のみしか設置していない。予想外の事態を招く事になりそうな物を置く意味が皆無だからである。事故の確率を減らすことが準備の前提なのだから。

イストワールが召喚する準備が完了してので、後は「異世界の陰陽五行説の概念」を召喚するだけである。


「……ふっ、ようやくこの時が来た。勇者という『情報の劣化コピー』ではない、純粋なる真理をこの手に掴む時がな」


深い森の最奥、異次元の狭間に位置する極秘工房。 老賢者イストワールは、狂気すら感じさせる笑みを浮かべ、杖を床に突き立てた。


彼の目の前で輝くのは、現代魔導学の到達点――概念抽出型・次元門召喚陣『概念の扉』。


その仕組みは、もはや「召喚」の域を超えている。 まず、外周の陣が、周囲の地水火風を完全シャットアウト。一種の「法則の空白地帯」を作り出す。 次の陣が、異世界の概念を物理定数へと強制変換。 そして仕上げは、空中に浮かぶ概念の扉』の召喚陣だ。


「この扉には二つの絶対条件(プロテクト)を課した。一つ、高次元の演算を解く『至高の知性』。二つ、万物を慈しむ『純粋なる善意』。これらを満たさぬ者は、ドアノブに触れることすら叶わぬ……ッ!」


イストワールの魔力が臨界点を突破する。


「――顕現せよ、理の体現者! ゲート・オープン!!」


「ゴォォォォォォォォォォン……ッ!!」


世界が震えた。 空間が雑巾のように絞り上げられ、次元の壁が剥離する凄まじい衝撃波、 虹色の魔力残光が渦を巻く。 『理の門』の隙間から、ホワイトアウトするほどの眩い光が溢れ出した。


これほどまでの大舞台。 現れるのは、光り輝く精霊王か、あるいは世界の法を記した神の化身か。


イストワールは息を呑み、その「偉大なる存在」を迎え入れようとした。


……だが。


「……カチャ」


あまりにも軽い、プラスチックの玩具を動かしたような音。 賢者が一生をかけて構築したセキュリティシステムが、まるで「鍵なんてかかってなかった」とでも言うように、あっけなく解錠された。


「キィィィィ……」


間の抜けた音を立てて開いた扉の先。 そこには――。


「……ニャ?」


まばゆい後光を背負って、一匹の猫が座っていた。 白・茶・黒の三毛。だが、その瞳は吸い込まれるようなサファイアブルー。足裏には、神の造形物のような桜色の肉球。


「な……み、三毛猫? しかも、この柄でオスだと……!? 確率論的な奇跡、いや、もしやこれこそが五行の具現……ッ!?」


イストワールが、あまりの展開に脳内処理が追いつかずフリーズしている間も、猫のマイペースは止まらない。


「ペチャ、ペチャ……クピクピ……」 入念に前足を舐め、顔を**「ゴシゴシ」と洗う。 そして、「うにゃぁぁぁん……」**と背中を高く丸めて、豪快な背伸びを一つ。


さらに、イストワールが数万ものルーンを刻んで作り上げた「最高位の絶界」を――。


「トスン」


「なっ、結界を無視したぁぁぁ!? 反応すら、反応すらしていないだと!?」


当然である。 この猫殿、召喚された際のショックで本来の概念能力は「完全封印」状態。 魔力も属性も一切持たない、純粋なる「ただの猫」として顕現してしまったのだ。 この世界の「魔力」を検知して作動する最新鋭の防犯システムにとって、彼は「存在しないも同然」の空白地帯。


「待て! そっちは私の、数十年分の研究成果がある方向――ッ!」

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忍猫さんの陰陽チュートリアル @nagomiaqu

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