第5話 「しぼんだ花さん」は誰?
シューベルトさんの歌曲集「美しき水車屋の乙女」の第18曲は、「しぼんだ花」です。
『彼女がぼくにくれた、君たちお花のすべては
ぼくといっしょに お墓に埋められたらいい・・・」
恋人(もともと、相当片思いだったのかもしれないのですが!)を森の狩人に奪われた彼が、憔悴しきって歌う歌です。
この、あまりにも美しい、悲しい歌の「お花」は、いったい何の花なのですか?
彼女が、なんと言うお花を、彼にくれたのかは、はっきりはしません。
あるいは、「くれたのではない」、のかもしれません。
「水車屋の小川には、小さな花がたくさん咲いていて、明るい青い目で見ているんだ。」と第9曲の「水車屋の花」には書いてあります。
そうして第13曲の「緑のリボンに添えて」では、彼女が「わたしは緑が大好きなの!」と言っています。
さらに第16曲「好きな色」では「ぼくは糸杉の森を、緑のローズマリーの繁る荒野をたずねたい。彼女が大好きな・・・」「芝生のお墓に僕を埋めてください。緑の芝で、ぼくを覆って。僕の恋人は緑が大好きだからね。」と言ってます。
すると、この「しぼんだお花」は、どうも「ローズマリー」さんのような気がしてきます。
全曲中で、一番感動的な第19曲、「水車屋と小川」(ああ、いったいこれに何十回泣かされたことでしょう)では、「やがて半分赤で半分白のばらが咲き出て、もうしぼむことはない・・・」と言っていますが、これは彼がこの世界から消えてしまった後の事を語っているのでしょう。
ローズマリーは、「生者」や「死者」を悪魔から守る力があるとされてきたのだそうです。だから葬儀にも用いられてきたと。
彼女が、「ローズマリー」を彼にくれたというのは、一度は彼に愛を向けてくれたということの象徴だったのかもしません。
もう大昔の失恋が元で、この曲はぼくにとっては一種の「トラウマ曲」になっていました。(奥様にはないしょです。あ、でも一回しゃべったね。)けれどもこの歌は、そのぼくの内なる昔の心情を、いつも超越してしまうのです。素晴らしいうたです。第18曲、第19曲、最後の第20曲。この三曲だけ抜き出して、当時よく聞いておりました。そううして、その後に聞くのは、いつもきまって『冬の旅』でした。青春の暗黒の日々ですね。
ところで、この歌(しぼんだ花)は、フルートの独奏曲としてもよく知られています。この歌のメロディーを主題とした変奏曲です。アマチュアのフルーティストには、相当手ごたえのある難曲ですが、ピアニストさんにはさらにまた、大変な負担のかかる曲です。なので、なかなかアマチュアの発表会で取り上げるのは、気が引けてしまう最大の、またあこがれの曲の一つなのではないでしょうか。
『やがて ぼくのお墓も埋めてくださいね ローズマリーさん』
お花詩編集 やましん(テンパー) @yamashin-2
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