第4話 「 ひなぎくさん」の占い
「ファウスト」の中で、グレーチヒェンが「花占い」をしたのは「アステルの花」と書かれています。
「アステルの花」とはいったい何でしょうか?
と、常識のないぼくは調べてみました。
アステル(アスター)は、日本ではエゾギクと呼ばれるお花だそうですね。
実際「花占い」をするにあたって、花びらの数が少なすぎたり、いつも同じ数だったら、占う理由がなくなってしまいますから。
そこで「ヒナギクさん」もよく使われるのだとか。
「愛しているか」「愛していないか」という、グレーチヒェンさんのようなかわいらしい占いを、ぼくが、するわけにもゆきますまい。
でも、何かやってみたいぞ、とも思います。
そこで、考えたのは「死因うらない」です。
必ず何かの死因でぼくだって亡くなることは確実なのですが、それが何かは、いまのところ不明なんですね。
そこで「ひなぎく」さんの花びらを切りながら、「心臓病」「胃がん」「肺がん」「交通事故」「転落」・・・・・・
と、うらなってみます。
このとき、ほんとに思い付きだとちょっとやりにくいので、あらかじめカードに書き出しておいて、トランプさんを切る様に、順番にして重ねておくのです。
最後になって、もしカードの方が少なければ、元に戻ればいいのです。
問題は、死因をどの程度類型化しておくかですが、まあ可能な限り、なにか統計資料でも見ながら、細かく分類しておきましょうか。
という事なのですが、考えているだけで、まだ準備もしていません。
すると、「ヒナギク」さんからメールが来ました。
「そういう危ない事に使うのはやめてください。迷惑です。」
と、おっしゃるのです。
「それは、いまどき、ちょっと危ない思想です。」 と。
「ふうん。そうでしょうか、自分の死因を占ってみる事だけなのに。ですか。」
「はい。われわれ「ヒナギク」と、あなたが反社会的な行為を共謀していると考えられたら困ります。」
「ははは、なんだ。それは大丈夫だよ。だって、いわゆる『共謀罪』の法を見ると『団体の活動として、当該行為を実施するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は・・・』、となってるから、「ヒナギク」さんとぼくとで、ぼくの死因を占いしたって、なんの問題もないじゃんか。改正されても問題ないさ。」
「私たちは団体ですよ。それと、他人の死因を占ってもですか?」
「べつに呪う訳じゃないし、やらないよ、そんなこと。ヒナギクさんたちは自分たちを団体だと思うかもしれないけど、人間側はこの法律上の団体とは見ないから大丈夫だよ」
「そうかしら? 人間は信用できないのです。なんか、言葉で裏切られることが多いのですもの。」
「そうかなあ。」
「だって、私たちを占いに使うこと自体が、もう人間のあいまいさを証明しておりますもの。」
「そりゃまあ、自分がどうやって死ぬかって、心配だもん。やっぱりさ。別に悪気も何にもないんだよ。」
「じゃあ、あなた共謀罪で「逮捕される」、「されない」で、占ってみてくださいな。」
「なにを共謀するっていうの?」
「未来の事だからわかりません。だから占うの。例えば来年火星人が攻めて来て、あなたを地球征服の仲間にするとか。ないとは言えないでしょう? それにあなた、そういうお話を、すでに書いてるでしょ? あれって、もうすでに共謀罪じゃないの?」
「共謀はしてないよ。空想のお話だもの。まあ、でもそれは、絶対ないとは言えないなあ。火星人来るかもしれないなあ。もう、そんな心配するようなこと言わないでください。占いは、もうやめますから。外にも出ません。人との付き合いも一切しません。なら大丈夫でしょう?」
「何かすごく心配ですわ。あなた世渡りへただし。」
「はあ、まあ、そうだけど・・・・。」
「よろしくね、危ない事はしないでね。社会の規範をちゃんと守ってくださいね。山火事なんか出さないでくださいね。お花を大切にしてくださいね。できれば、花びらをちぎらないでね、痛いから。どうしてもやるなら、カードだけでやってくださいね。」
で、メールのやり取りは、終わりました。
そこで、ぼくは考えています。
占いカードの中に『永遠に死なない。』
を入れておこうかな、と。
『ヒナギクさん 心配するなら いい占いの結果を出してよね』
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