当て身で気絶するのは創作の中だけらしい

「本題に入る。今までの話を踏まえて、君達に頼みがある」 


 社長が改まったように喋る。


「人類存亡のため、君達にはエンダーと戦ってもらいたい。君達はエンダーを見ても、動じなかった。戦う資格は十分にある」 


 息をするのを忘れてしまいそうになりそうなくらい、私は驚く。慌てて鼻から酸素を取り入れて、気を落ち着かせる。 


 アビリティリングの能力を駆使して、宇宙からの侵略者と戦う……。 


 社長からの頼みは意外な物だった。


「拒否しても構わない。だがこの機密を外部に漏らすわけにはいかない。拒否した者は、わが社が開発した特別な装置を使い、記憶を消させてもらう」 


 なにそれ怖い。拒否できないじゃない。


「オレはやる」

「ゆ、ユウ!?」

「エンダーを野放しにしておけば、いずれ人類は滅ぼされるんだろ。オレはやつでを守らなければならない。そのためにはエンダーは邪魔な存在だ」 


 そういう恥ずかしい台詞を公然で堂々と言うのはやめてほしい。


「オレだって!」 


 車田くんが叫ぶ。いきなり叫ぶから、ちょっとびっくりした。


「人類を守るために戦うなんて、燃えるじゃねえか!!」 


 車田くんの目がメラメラと燃えているように見える。


「……質問、していい?」 


 今まで無言だった常盤空くんが挙手する。彼の声は車田くんとは対照的に、とてもか細い声だ。


「……大会優勝賞品、『何でも願いを叶える』。それはまだ有効?」

「もちろんだ。エンダーに勝利できれば、一人一つ、どんな望みでも叶えよう」

「……じゃあ、戦う」 


 どうやら常盤くんには、どうしても叶えたい願いがあるようだ。


「でしたら私も戦いますわ」 


 氷華ちゃんも戦う気だ。彼女にも何か叶えたい願いがあるのだろう。 


 私にもある。どうしても叶えたい願いが。


「わ、私も……!」

「やつではダメだ」 


 上げようとした手をユウに止められる。


「な、なんで!?」

「危険だからだ。悪いが今回は『止めるな』という命令は聞けない。以前は安全な大会だったから、俺も命令を聞き入れた。だが今回は違う。相手は人類を殺す侵略者だ」 


 私の手を掴んだまま、ユウは社長に話しかける。


「ディーノ社長。頼みがある」

「何だね」

「俺の望みの代わりに、やつでの願いを叶えることは可能か?」

「もちろん可能だ。だが君はそれでいいのかね?」

「かまわない」

「いいだろう。不動くんの代わりに凩くんの願いを叶えよう」

「感謝する」

「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなこと勝手に――」 


 決めないでよ!  


 そう言おうとしたら、ユウに首の後ろを殴られた。当て身というやつだ。 


 殴られたことで、脳が揺れる。意識が遠のく。


「すまない、やつで。……ディーノ社長。やつでの記憶を、ここでの会話の記憶を消してくれ」 


 ユウが私の手首からアビリティリングを、ポケットからカードホルダーを抜き取る。


「少し借りるぞ。戦いが終わったら返す」

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