炎と水
『それでは、試合開始!』
戦いの火蓋が切られた。
先に仕掛けたのは吹雪さんだ。右手のを鉄砲の形にする。指でできた銃身が烈くんを狙う。
『shoot』
彼女はそう呟いた。
その瞬間、彼女の指先から何かが発射された。
それは水だった。水でできた弾丸。
ある工業分野では、水はとても重要な存在である。水を高圧で発射すれば、金属さえも切断する、強力なものとなる。
つまり、あの水弾丸は下手な武器よりも強力ということだ。
対する車田くんはというと……。
『なるほど、水か! へへへ……!』
笑っていた。真っ白い歯を露にしながら笑っている。
そして車田くんはまるでプロボクサーのようにファイティングポーズをとる。
背筋と肘のバネを利用して、車田くんは弾丸に向かって拳を突き出す。
その時だった。
発火した、彼の、車田くんの拳が。
炎の拳が水の弾に炸裂する。
ジュゥという音とともに、水の弾丸は蒸発した。
『そんな水鉄砲じゃ、オレの炎を消すことはできないぜ!』
シャドーボクシングをして威嚇する烈くん。拳のシャドーは炎の軌跡を描いていた。
「炎と水の対決か……」
ジッとモニターを見ながらユウが呟く。
「ユウはどう思う? この試合」
腕を組みながら、少し考えてユウは答えた。
「今の一手を見る限り、あの車田の炎は一瞬で水を蒸発させてしまうほどの高温ということだな」
水の沸点は百度。つまり車田くんの炎はそれ以上の温度ということだ。
「じゃあ、吹雪さんの方が不利なの?」
「そこまでは言わんが、普通の水攻撃は車田には通用しないだろうな。それより画面から目を離すなよやつで」
私はモニターに視線を戻す。
『……』
吹雪さんはというと、ずっと無表情だった。余裕の表情も、焦っている感じもしない。
彼女は今度は両手で、鉄砲を作る。
『shoot、shoot、shoot……』
今度は両手での連続銃撃。
数十発の水の弾丸が車田くんを襲う。
『はぁああああ!』
だが車田くんも連続パンチで応戦する。全ての弾丸を蒸発させる。
『効かーん!!』
彼は高らかに宣言する。
やっぱりユウの言う通り、普通の水鉄砲は彼には通用しないらしい。
連続攻撃も効かないと判断した吹雪さんは別の攻撃に移る。
彼女はしゃがんで、地面に手を着く。
そして……。
『wave』
吹雪さんを起点に、地面から巨大な波が発生した。
「ほぉ、あれほど大量の水を発生させるとは……」
ユウが感心している。その点に関しては私も凄いと思う。
巨大な波は吹雪さんの意思に従っているらしい。彼女が車田くんを指差すと、波は彼に向かって襲いかかる。
対する車田くんはというと……。
『うぉおおおおお!』
両腕をぐるぐるを振り回していた。
別に彼は楽しいから腕を振り回しているのではない。力を蓄えるために回している。
その証拠に彼の炎がドンドン大きくなる。画面越しなのに、こっちまで引火してきそうな雰囲気だ。
大波と車田くんの距離が縮まる。
もうそこまで波が近づいてくる。
『喰らえ、大噴火ぁ!!』
彼の両手から巨大な爆炎が発生し、炎が波と衝突する。
波の蒸発音。大量の水蒸気が発生した。
水蒸気が晴れると、そこには無傷の車田くんが立っていた。
『へへへ、どうだ! ハァ、ハァ……』
『まさか、あれだけ大量の水を蒸発させてしまうとは。これは素直に褒めざるをえませんわね』
吹雪さんが車田くんを褒める。どうやらあの攻撃、彼女にとっては自信のある一撃だったらしい。
『ハァ、ハァ……どうやら、この勝負。勝者は、決まったようだな!』
『ええそうですわね。……この勝負、わたくしの勝ちですわ』
『ハァ? 何を言って――うっ!?』
その瞬間、片方が倒れた。
倒れたのは、炎の男、車田烈くんの方だ。
レフリーが車田くんに近づく。
『車田烈選手、気絶!! 勝者、吹雪氷華選手!!』
審判が勝利者の名前を高らかに宣言する。歓声が沸きあがる。
一体何が起こったのか、私には分からなかった。
「ね、ねえ何が起こったの?」
ユウに聞いてみる。
「分からない。だが、あの女が何かをしたのは間違いない」
ユウも分からないのか……。
「吹雪氷華……ただの水使いではなさそうだな」
腕を組みながら、ユウが呟いた。
私は息を飲む。
次の試合で勝てば、彼女と戦うことになる。
彼女に対抗するにはどうすればいいか、私は考えてみる。
炎で水を蒸発させるという、車田くんの防御方法は悪くないと思う。
私の能力で炎を発生させることはできる。でも、ただ炎を生み出すだけじゃ車田くんの二の舞だ。吹雪さんがどうやって彼を倒したのか、それが分からないと。
「やつで」
吹雪さんの能力を考えている私に、ユウが話しかけてくる。
「あの女の能力が気になるのは分かるが、今は目の前の戦いに集中しろ。あいつがどうやって車田を倒したのか、それは俺が考えておく」
「う、うん」
そんななか、大会運営スタッフが私に会場に向かうように指示した。
私は控え室にユウを残して、会場に向かった。
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