園長先生

 僕は幼稚園の塀をよじ登り、園内に侵入した。続いて逢原さん、その後に逢原さんにサポートされて桜子が入ってくる。


「なんか、不気味だね……」 


 桜子がビルの時のように腕にしがみつく。今回は僕の腕ではなく、逢原さんの腕だけど。相変わらず、幽霊が出そうな場所は苦手らしい。桜子にしがみつかれている逢原さんはいつも通りクールだった。やっぱり彼女はオバケを怖がるようなタイプではなかった。


「ここって、随分昔に潰れたらしいよ」 


 近年の不況や少子化の影響を、ここも受けていた。孤児院が潰れたということは、身寄りのない子供も少なくなったということだから、考えた方によっては喜ばしいことでもある。それでもやっぱり、自分が育った場所が潰れたというのは寂しいけど。


「……誰かいる」 


 逢原さんが指差す方を見る。 

 閉院しても、まだ電気は通っているらしい。明かりがついていた。あそこは確か体育館ホールがある場所だ。窓にボヤっと人影が見える。誰かがいるのは確実だ。


「行ってみよう」 


 僕は先頭を切って、歩き出す。 

 扉の前に立った僕は、一応ノックをしてみる。


「入りたまえ」 


 ドアの向こうから、渋い声が聞こえてきた。僕はこの声に聞き覚えがあった。


「失礼します」 


 僕達はゆっくりとホールに入った。 

 ホールの中央には、一人の老人が立っていた。 

 僕はその人を知っていた。白髪とシワが増えているけど、お世話になった恩人の顔を忘れるはずがない。


「お久しぶりです、園長先生」 


 僕は小さくお辞儀をする。


「紅君か、大きくなったな」 


 違う。僕達は昔を懐かしむために、ここに来たのではない。


「先生、正直に言ってください」

「なんだね」 


 僕は一度深呼吸して、意を決して、先生に質問をした。


「先生、なんですか? 小さかった僕と逢原さんを、そして今日、桜子を多重人格にしたのは、あなたですか?」

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