人工多重人格への手がかり

「聞きたいこと?」 


 クロちゃんが桜子に質問をする。なんだろう、聞きたいことって。


「単刀直入に聞くぞ……こんなことをしたのは、お前を多重人格にしたのは誰だ?」

「(え、それってどういう……?)」

「言葉通りだ、史郎。桜子は何者かによって、別人格を植え付けられた。いや、桜子だけじゃない、逢原詩織、そして史郎、お前も誰かによって多重人格にされたんだ」

「(え、ええ!?)」


 僕達が、誰かの手によって多重人格にされただって!?


「裏の逢原ともさっき話し合ったんだ。自分達は、自然に史郎達の頭の中に生まれたのではなく、誰かの手によって、二人の脳内に植え付けられたんじゃないのかって」 


 クロちゃんの発言に、僕の頭に衝撃が走る。


「最初は、俺達も半信半疑だった。どんなに疑問に思おうが、調べる術がないからな。もしかしたら、俺達の勘違いかもしれないと思った。だが、さっきの桜子を見て確信に変わった。史郎、表の逢原、桜子。お前達は誰かの手によって、人工的に多重人格にされたんだ」


 クロちゃんは話してくれた。自分達は主人格の分身なのではない。元々別の人間の精神で、無理やり僕達の頭の中に埋め込まれたのではないか。十年間の謎を解く鍵を、桜子が握っていると。


「もう一度、聞くぞ桜子。お前を多重人格者にしたのは、誰だ?」 


 だが、桜子は首を横に振る。


「ゴメン、分からない。家に帰る途中、後ろから口と鼻を抑えられて、そのまま眠っちゃったから。気づいたときには、あいつに身体を乗っ取られていて」

「……おそらく、麻酔薬のようなものを嗅がされ、その後、あの人格を植えつけられたのだと思う」 


 桜子の話を聞いて、逢原さんが冷静にその時の状況を推理する。


「手がかりゼロか……何かしらの共通点でもあれば、犯人に繋がると思ったんだが」

「……両親がいない、という私の主人格と紅史郎の共通点は、小川桜子には当てはまらなくなった。彼女の親は存命している」 


 クロちゃんはがっかりする。逢原さんも顔には出さないけど、とても悔しそうだ。二人とも自分のルーツを知りたいらしい。 


 僕は考える。なんとか人工多重人格者の犯人を探す方法が無いか、二人の力になれないか、考える。


「(ねえ、その桜子が眠らされた場所に行ってみない? 何か分かるかもしれないよ)」 


 考え出された解は、とてもシンプルなものだった。でもこれ以外思いつかない。


「(そうだな)おい、今から桜子が襲われた場所に行くぞ。桜子、案内を頼む」

「(え、今から行くの?)」 


 今から行くのはまずいのでは……。


「(いいか、史郎。事態は一刻を争うんだ。犯人がまた、桜子のように狂った人格を植え付けられるかもしれねえ)」

「(それはそうだろうけど……でも、僕達や逢原さんはともかく、桜子は早く帰らないと親に怒られちゃうんじゃないかな)」 


 僕と逢原さんは一人暮らしだから、夜に出歩いても、怒る人がいない。でも桜子は別だ。今頃親御さんは心配して桜子を探しているかもしれない。


「よし、桜子。親にメールしておけ。今日は友達の家に泊まるってな」

「(そんな横暴な……)」

「あ、パパとママなら連絡しなくても大丈夫。今仕事で海外にいるから。さ、こっちだよ」 


 それなら、安心……なのかな。まだちょっと不安が残る。 

 歩く桜子の後を、クロちゃんと逢原さんは追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る