友達

「……おそらく紅史郎に危機が迫った際、殺されそうになった際、小川桜子の精神は彼を助けたい、救いたいという思いで満たされ、嫉妬心が消えた。それにより入れ替わり条件が満たされなくなり、人格が元に戻ったと思われる」


 公園のベンチで切られた傷を手当しながら、逢原さんの冷静な考察を聞く。

 僕も彼女の考察に賛成だ。でなければ桜子の心から嫉妬が消えた理由の説明がつかない。


「ごめんなさい!」


 桜子が土下座しそうな勢いで謝ってくる。


「あたしの心が弱かったから……史郎っちと詩織っちの仲を嫉妬なんかしたから」


 泣きながら懺悔する桜子の肩を、ポンポンと叩く。


「桜子。お前は悪くない、悪いのは別人格の方だ」


 そうだ。僕達に危害を加えたのは別の桜子だ、この桜子じゃない。桜子の脳に現れた、別人格の方だ。

 それに嫉妬なんて誰だってするものだ。七つの大罪なんて言われるが、それを言ったら人類みな罪人で、死んだら地獄行き確定だ。


 だから桜子は決して悪くない。


「……元に戻って良かった、私の主人格も喜んでいる。私も、嬉しい」


 小さく笑う逢原さんの顔を、僕は初めて見た。

 うんうん、本当に良かった。


「ねえ、二人とも」

「……何?」


 桜子が真剣な顔で、僕達に語りかける。


「あいつの言ったことは、脚色してはいるけど、全部本当のことなの。あいつの言ったように私は、本当は腹黒いの。なのにどうして優しい言葉をかけたの? どうして必死になって私を助けてくれたの?」 


 どうしてか、そんなの、英語の小テストより簡単な答えだ。 

 僕と逢原さんはテレパシーで意思疎通もできないし、アイコンタクトで答え合わせをしたわけでもない。

 でも僕達の解答は一致していた。


「……友達だから」

「そういうこと」 


 友達なら、友達のためなら僕は身体を張れる。何度だって立ち上がれる。桜子を助けるためだったら、望んで命を懸ける。それが僕達……お前の友達だ、桜子。 

 僕達の答えを聞いて、桜子は泣きじゃくる。もちろん悲しいからじゃない、嬉し泣きだ。そうだろ桜子。


「ありがとう、詩織っち、史郎っち……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る