クール逢原の気持ち

「もう、うるさいなー」


 もう一人の私が史郎に飛び掛る。


 それを阻止したのは詩織っちだ。


「……させない」

「ほらほら、見てよー宿主様ー。今、この女、紅史郎のことを守ったよー」


 もう一人が私の嫉妬心を煽るような発言をする。


「そういえばさー、あんたにも聞きたいことがあるんだよねー」


 詩織っちに不気味に笑いながらもう一人の私が勝手に喋る。


「あんたさー、自分は主人格の逢原詩織のために、紅史郎をフッたらしいけどさー。もし、その身体が自分の物だったらー? 多重人格じゃなかったらどうしてたのー? 告白、OKしたのー?」

「……」

「沈黙ってことはー、否定しないんだねー。あはは、宿主様、聞いたー? この二人、口では何とでも言ってるけど、やっぱり愛し合ってるみたいだよー、あはは、お熱いねー」


 ……そうなんだ。そうだよね、史郎っち優しいし、頼りになるもん。二人はお似合いだよ。私が入り込む余地なんて、最初から無かったんだ。

 なんとか二人の間に入りたくて、二人を無理やり新聞部入れたりもしたけど、結局何も変わらなかった。恋人ではなかったけど、二人の仲は睦まじいものだった。私が入り込む余地なんか無いくらいに。 なんか、もういいや、何もかも。


 このまま何かも壊してしまいたい……。


「……小川桜子、私はあなたに感謝している」


 ……え?


「はぁー?」


 もう一人の私の動きを抑えながら、詩織っちは私に語りかける。


「……あなたは主人格の友達になると言ってくれた。それによって主人格は救われた。おそらく、私と彼だけでは、主人格を心の闇から救うことは不可能だったと思う。主人格が生きる気力を持てたのは、あなたのおかげでもある」


 詩織っち。私は何もしていないよ。しおりんを助けたのは、史郎っちとクロやんだよ。私はただ、史郎っちの意見に賛同しただけだよ。


 なのに……。


「……さらに、あなたは私のことも友達と言ってくれた。私は嬉しかった。性格が暗く、友人関係が少ない私を、新聞部に誘ってくれた時も、私は嬉しかった」


 違うよ、詩織っち。私があなたを誘ったのは、あなたを誘えば史郎っちも部活に入ると思ったからだよ。私はあなたを利用したんだよ。


 なのにどうして……。


「……小川桜子。改めてあなたにお礼を言いたい。他人格を通してではなく、あなたに直接言いたい。戻って」


 どうして、そんなことを言うの。どうしてそんなに私に優しくしてくれるの?


「桜子、戻ってこい! また三人で新聞作って、駄弁って、遊ぼう!」

「……あー本当うるさいなー!」


 詩織っちを振りほどき、史郎に向かって飛び掛る。私の右手には、鋭利な包丁が握られていた。


「(危ないよ、史郎っち! 早くクロやんに代わって!)」


 でも、彼はメガネを、取らなかった。

 史郎っちは両手を広げ、私の攻撃を受ける体勢になる。


「(駄目ぇえー!!)」

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