第9章 囚われの桜子
囚われの桜子
私は史郎っちのことが好きだった。
どうしようもなく好きだった。史郎っちはデートとは自覚していなかったけど、一緒に映画館を見に行ったり、心霊スポットで肝試しをしたり、なるべく一緒の時間を過ごしていた。それはとても楽しい時間だった。大好きな史郎っちと一緒にいられて幸せだった。
でも、それは叶わぬ恋だと知っていた。
史郎っちには好きな人がいた。それは私ではなかった。彼はあの子……詩織っちにゾッコンだった。
「――あははー乙女チックだねー」
もう一人の私が、私の願望を暴露する。恥ずかしさで私はどうにかなってしまいそうだった。
「ねえ、紅史郎――逢原詩織は急用で来れないって――アレ、嘘ー」
口が勝手に動いてしまう。止まれと命じても止まってくれない。
「――前もって逢原詩織に来ないようにメールしてたんだよー――」
やめて、言わないで。史郎っちに嫌われてしまう。嫌だ、やめて。
でも非情にも、もう一人の私は喋るのをやめない。
「――愛しの王子様が根暗女に取られなくてよかったってねー、あははーすっごい腹黒ー」
やめてやめてやめて、私はそんなこと思っていない。思って、ない。
……違う。本当は思っていた。詩織っちが史郎っちを振った時、私は喜んだ。私は最低な人間だ。好きな人が失恋して傷ついている時に、自分は喜んだのだ。これで自分にもチャンスが来たと、喜んだのだ。
「桜子!」
「んー、なあにー?」
「お前じゃない! 桜子聞こえているか!」
史郎っちが私に話しかけてくる。見ないで、史郎っち。こんな腹黒い、醜い私を見ないで……。
「ゴメン、桜子の気持ちに気づいてあげられなくて」
史郎っちは頭を下げる。
「こんなわけの分からない状況だけど、桜子の僕への気持ちは理解したよ。でも、ゴメン。僕は今でも逢原さんのことが好きなんだ。多分、この気持ちは変わらないと思う」
史郎っち……。
「だけど、桜子も大切な人だ! 逢原さんのことが好きなのと同じくらい、桜子の事を大切な友達だと思っている! 僕は、いつも元気に挨拶してきて、いつも楽しそうに笑う桜子が大好きなんだ!」
やめて、史郎っち。私はあなたにそんなふうに言ってもらう資格はないんだよ。
「桜子! お前が嫉妬を感じる必要なんてない! そんな別人格の言うことなんて気にするな!」
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