入れ替わり条件:嫉妬

「(桜子!!)」


 やった。桜子が元に戻った。そう思った。


 だが、そう思った瞬間、鋭利な刃物に、右足を切られた。


「ぐわっ!」

「(痛っ!)」

「……!」


 続けて逢原さんも、腕を切られる。

二人は慌てて、相手との距離を取る。


「あははは、危ない危ない。一瞬意識が飛びかけちゃったよー」


 刃についた血を舐めながら、ニセモノが言う。


「(くっ……大丈夫!? クロちゃん、逢原さん!)」

「ああ、なんとかな。逢原、お前は?」

「……かすり傷。あと一瞬、反応が遅ければ危険だった」


 そうは言うけど、逢原さんの腕からは痛々しいほどの血が流れていた。


「だが気絶作戦は有効みたいだな。問題は……」

「……あの相手に同じ手段で攻撃するのは危険」


 痛みを我慢しながら、クロちゃんと逢原さんは状況を分析する。超人的なパワーを持つ二人が押されているなんて、あのニセ桜子の力はそれ以上なのだろう。


「いいねーいいねー仲がいいねー。その調子だよー、もっと仲のいい所、あたしに見せてよー。それがあたしのパワーに変わるからさー」

「俺達の仲がいいことがパワーになる? どういう意味だ?」

「教えてあげるー。あたしの入れ替わり条件は、嫉妬ー。宿主様がジェラシーを感じると入れ替わるのー」


 ジェラシー? あの桜子が?

 敵の言葉に、僕達はキョトンとする。


「あはは、まだ分からないのー? 鈍感だねー。あたしの宿主様の、小川桜子はねー紅史郎のことが好きなんだよー。あ、もちろん、あんたのことじゃなくて、主人格の方ねー」

「(!!)」


 僕は驚愕した。


「一緒にお弁当食べたりー、手をつないでデートしたりー、夜景を背景にキスしたりー、そんなことしたいと思ってたんだよー宿主様はー。あははー乙女チックだねー」


 ニセモノの高笑いが公園に響く。


「ねえ、紅史郎ー。聞こえてるんでしょー。面白いこと教えてあげるー、今日の新聞のネタ探しさー、逢原詩織は急用で来れないって言ってたけどさー、アレ、嘘ー。本当は、宿主様が前もって逢原詩織に来ないようにメールしてたんだよー、適当な理由つけてさー」


 ニセモノの暴露発言に、僕は言葉を失う。


「さらに言えばー、実はあんたがフラれた時、宿主様めっちゃ喜んでたんだよー。愛しの王子様が根暗女に取られなくてよかったってねー、あははーすっごい腹黒ー」

「てめえ……」


 クロちゃんは怒っていた。


「(クロちゃん、僕のメガネ、持ってきてる?)」

「(ああ、ポケットに入れてあるが……て、まさかお前!)」


 クロちゃんが首をブンブンと横に振る。


「(ダメだ! 今外に出るのは危険すぎる! 俺と逢原があいつを止めるまで――!)」

「(それじゃあ、ダメなんだ! 言ってたでしょ、嫉妬があいつの入れ替わり条件だって!)」


 僕は脳内で叫ぶ。


「(たとえ気絶させてもきっとあいつはまた入れ替わる。気絶されるだけじゃ、ダメなんだ! 桜子の心を救わないと。それができるのは僕しかいない。クロちゃんと逢原さんの力技じゃダメなんだ!)」

「(史郎……分かった、でも危なくなったらすぐに俺に変われ、いいな!)」


「(うん、ありがとうクロちゃん)」


 僕の説得に応じ、クロちゃんはメガネをかけてくれた。

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